#75
彼女らは異なる場所でおそらく同じタイミングでふと嫌味っぽく、冷酷に笑っただろう――。
「友梨奈さん、ついにやってくれたな……」
ここまでの場面をリアルタイムで見てきたジャスパーは友梨奈が結衣の身体でありながらエリカの左頬を平手打ちするところから彼女の本心が垣間見えたような気がした。
今までは清楚な女子中学生から悪役令嬢に切り替わった瞬間の場面が彼にとっては印象的である。
「さて、映像と僕の推測を確認しなければ」
ジャスパーは指で映像を巻き戻し、カルテに書き記しておいたものを照らし合わせながら見ていくことにした。
「この流れでいくと……一つ目と二つ目かもしれないな……」
一つ目のエリカとまひろは仲がいいことは事実である。
しかし、後者は「いじめられていた友梨奈のことがどうしても許せなかった」と話していた場面があり、前者はやはり友梨奈と一緒にいる時間が長くなったため、寂しさや聡に振られてしまった嫉妬心が芽生えてしまったのかもしれない。
二つ目のエリカが中心となって友梨奈をいじめようと考えた。
それは彼が推測していた通りであり、本人も話していたため、確実に優勢である。
「三つ目は例外……ということは……なるほど」
三つ目のエリカ達ではない他の誰かという考えは例外。
その代わりにエリカと友梨奈が聡に告白したあとの恋愛沙汰が加わることになった。
よって、早紀が話してくれたことがきっかけで彼女のいじめの原因がその日のうちに判明したということになる。
「彼女らのやり取りは見ていて面白いのに、終わってしまった……」
彼はつまらなさそうにタブレット端末の電源を切った。
「あなたの解析は終わりました。あとは最終日を決めるだけ……」
ジャスパーは結衣の最終日のことを考えながら出たため、数歩歩いた時に診察室の電気を消し忘れにに気がつく。
彼がそこに戻ろうと後ろを振り向いたやさき、友梨奈の姿があった。
「ジャスパー先生?」
「おや? 友梨奈さんからこちらに伺うなんて珍しいですね」
彼女は一瞬だけ微笑むが、すぐに真顔に戻る。
「あの……実は私、訊いておきたいことがありまして……」
「それはなんでしょう?」
「もし、私の目的が果たされたらどうなるのかが知りたくて……」
「僕もあの頃からずっと脳裏に引っかかっていました。そのことについて訊きたかったのですね?」
「はい」
「実は僕も先ほどではありますが、解析を終えたところです。まあ、友梨奈さんの解析ではないと言った僕も同罪ですから」
「やっぱり、私のことだったのですね?」
「ご察しの通りです」
ジャスパーは友梨奈があの時に訊きたかったことが今になって分かったような気がしていた。
一方の彼女は彼が話していた解析とは友梨奈の解析だと知り、少し拗ねている模様。
彼らは疑問点をずっと胸中にしまっていたため、互いに同罪だったのかもしれない――。
「早速で申し訳ありませんが、友梨奈さんが目的を果たしましたら、あなたの存在はなくなります」
「それは私が転生する前に言っていた、魂しか存在しない亡霊ですか?」
「ええ。しかし……」
ジャスパーが友梨奈の問いに答えているにも関わらず、彼女はショックを受けてしまい、放心状態になっていた。
彼は重要なことを話していたのかもしれないが、完全に聞き流してしまっている。
なぜならば、友梨奈が目的を果たしてしまった場合は彼女自身の存在がなくなってしまうのは寂しすぎるから。
「私の第二の人生もやっぱり短いのか……」
「やり残したことや後悔していることはありますか?」
「実はあります。まだ部活に顔を出していないので……」
友梨奈が「野澤 結衣」として学校に通い始めてまだ一日しか経っていない。
彼女はクラスメイトと話したい、部活動に顔を出したいなどとやり残したことがたくさんある。
しかし、友梨奈はいじめられていた原因が判明したおかげで後悔していることはないに等しい。
「そうでしたか……実は友梨奈さんが「野澤 結衣」として前世にいることができる最終日が近づいているのです」
「あと何日くらい猶予があるのですか?」
「あと……二日間です」
「あと二日でやり残したことをこなすのはきついと思うけど、少しでも後悔のないように過ごします」
ジャスパーは本来ならば彼女にもう少し日数を与えたいと思っていたが、あまりにも大きな伏線を回収することが早かったため、二日間という短い日数しか与えることができなかった。
友梨奈は「木野 友梨奈」としても「野澤 結衣」としても二日間でやり残したことを全力で片付けようと決意した。
「【原作版】」の「#41」と「スピンオフ」の「#43」をベースに改稿。
2018/11/25 本投稿
※ Next 2018/11/25 19時頃更新予定。




