#74
教室の扉が少し開き、「その話、最後まで聞いてたよ?」と言いながらエリカが入ってきた。
「「篠田さん!」」
「エリカ!」
「明日の放課後に話すって言ったのに、ウチがいない間に勝手に話が進んでるってどういうこと?」
「……ごめん……なさい……」
「工藤さんが悪いわけじゃないよ」
結衣達は彼女が入ってきたことに驚きを隠せずにいる。
しかし、エリカは自分がいない間に話が進んでいることに苛立ちを感じていた。
早紀は彼女に謝り、まひろが庇うように声をかける。
「まひろはここ最近、いつもそうだよ……さっきの体育の時もそうだったし……」
「確かに、あたしはいつも中立かもしれない。でも、人との関わりを大切にしたいと考えるようになった」
「それは木野さんが生きてた頃からでしょ!?」
「そうだよ。あの頃からあたしはいじめられてた木野さんがどうしても許せなかったから、柚葉達と一緒にいた」
彼女は少し寂しそうな表情を浮かべているエリカに自分が思ったことを口にした。
まひろは言葉を切り、「……エリカは最悪だよ」と一瞬、彼女から視線を逸らす。
「ウチが最悪?」
「うん。お昼の時も言ったけど、エリカは木野さんをいじめてそんなに愉しかったの?」
「………………」
彼女は再度、昼休みの時に訊いてみた問いをエリカに突きつけるが、何も答えようとしない。
次の瞬間、結衣は彼女の前に立ち、右手で左頬を平手打ちする。
その時の彼女は苛立ちのあまりに整然としていられなかったのだ。
結衣は目の前にいるエリカを見て鼻で笑う。
彼女はジャスパーが授けてくれた悪役令嬢を思いっきりやらせていただこうと決意した。
「篠田さん、いい加減に答えなさい?」
「………………」
「まだ黙っていらっしゃる……早く答えてくださらないと、友梨奈さんを自殺に追い込んだ張本人としてバラしますわよ? 学年中……いや、学校中に!」
「結衣ちゃん!」
「「結衣!」」
「野澤!」
「野澤さん!」
「もし、なんでしたら、わたくしから教育委員会に訴えてもよろしくて?」
その場にいた早紀達は突然、結衣がそのような言葉で話をしているので、凄く驚いている。
彼女は自分で言いたいことをそのまま言っただけだけなのだが、本人自身でも――。
「……愉しかったよ……」
エリカは結衣に脅しかけられながらようやくまひろの問いにようやく答えた。
「えっ!? なんですって? もう一度、言ってごらんなさい?」
「だから、ウチはあの人をいじめて凄く愉しかった」
彼女の耳にはエリカが言ったことは聞こえていたが、そこで普通に話を続けていても面白くないと思い、あえて聞かなかったふりをする。
その答えを再度、耳にしたまひろ達の表情が徐々に凍りついていった。
結衣は彼女らのその表情を求めていたため、ふと嫌らしく笑っている。
「それはそれは楽しかったでしょうね? あなたと他の何人かが中心となって友梨奈さんをクラス全員でいじめてきたのでしょうから。もちろん、あなたの指示で。そうでしょう?」
「……はい……」
「さて、次の質問。秋桜寺くんと友梨奈さんがつき合い始めた頃、あなたは彼女に対して、嫉妬していた。彼女が憎かった。それは本当のことかしら?」
「……半分は本当で、半分は嘘……」
「曖昧な回答ですわね? どちらか決めてくださらない?」
「………………」
「黙っていらっしゃると分かりませんわ! わたくしは曖昧な回答が大嫌いですの。もう一度伺います。それは本当のことですの?」
「はい、本当です。三年生になって木野さんと同じクラスになったらハメようと言ったこともまひろや荒川さんを含めたクラス全員を巻き込んで愉しんだことも……」
「まだありそうですわね?」
「まあ……まず最初にまひろと調子に乗りやすい男子グループに話しかけたら、喜んでやってくれた。実際にやっているうちはやられてる木野さんを見てることが愉しかった。そこからどんどんクラス全員にまで広がってエスカレートしていったんだと思う……」
エリカは彼女の問いに時々沈黙したり、曖昧な答えを返していたりしたところがあったが、自分が思っていたことを口にした。
結衣はこれらの情報だけで納得することができたのか否かは分からない。
彼女が分かったことはエリカは最低な人間であることが明らかになったくらいだった。
「よって……すべてあなたの責任でよろしいかしら?」
「……はい……」
「ならば、明日の全校集会の時に先生方と全校生徒の前で謝りなさい? きちんと土下座をしていただければ、わたくしは教育委員会に訴えずに済みますので」
彼女は「分かった」と言い残し、結衣達がいる教室から姿を消した。
「【原作版】」の「#39」と「#40」と「スピンオフ」の「#42」をベースに改稿。
2018/11/24 本投稿
※ Next 2018/11/25 0時頃更新予定。