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#73

「あら。工藤さん達、どうされましたの?」

「みんな、こんなところだとなんだから、教室に入っておいでよ!」


 結衣は早紀達が教室付近にいることに気がつく。

 柚葉が彼女らを教室に入るように促すと、「お邪魔します」、「失礼します」と礼儀正しく挨拶(あいさつ)をしてから入ってきた。

 勇人が「そんなことを言わなくてもここには僕達しかいないから大丈夫だよ」と肩を(すく)めながら言う。


「あ、ごめん」

「あたし達、変だったよねー」

「お話が逸れてしまいましたわね」

「そうだね」

「わたし達しかしないのに」


 聡と凪が申し訳なさそうに彼らに謝り、一瞬笑いが起きた。


「改めまして、早紀さん、どうされましたの?」

「あのね、結衣ちゃん。聞いてほしいことがあるんだ……」


 結衣は早紀に問いかける。

 彼女は深刻そうな表情を浮かべながら答え、結衣が「ん?」と疑問を持ったようだ。


「ところで、まひろちゃん。このクラスに女の子がいるでしょ? えっと……誰だっけ?」


 早紀はその女子生徒の名前を思い出そうとしているが、なかなか出てこない。

 彼女らが通っている私立花咲大学付属中等学校の一学年あたりの人数は二百人以上いるため、なかなか名前が出てこないことは仕方がないのだ。


「もしかして、エリカのこと?」


 まひろが彼女に篠田 エリカのことがどうか訊き、「うん」と頷く。


「ボクは二年生の頃、その子と同じクラスだったから分かったことだけど……」

「どうかしましたの?」

「実はボク、噂で聞いちゃったんだ……」


 早紀は少し俯きながら結衣達に告げた。


「早紀、話してごらん?」

「……うん……あのね……友梨奈ちゃんと聡くんがつき合い始めた頃の話だけど……」

「うんうん」

「それで?」


 彼女は重い口を動かそうとしている。

 勇人と聡が相槌(あいづち)を打ち、その話の続きを促した。

 その時、結衣は友梨奈と聡がつき合い始めた頃の話だと聞き、表面上では驚いているが、心中ではおろおろしている。

 しかし、彼女は一つだけ思い出したことがあった。

 友梨奈は彼に今年の二月のバレンタインデーに告白し、彼女らがつき合い始めたのは三月のホワイトデーだったことを――。

 そのような状況の中でも早紀の話は続く。


「さっき、お昼の時にきたメンバーで話していたみたいだよ。もし、来年のクラス替えで誰かが友梨奈ちゃんと同じクラスになったら……ハメようとか言っていたから……」


 彼女は勇気を振り絞って話を進めているが、最後の方は言葉を詰まらせながら話してくれた。


「そ、その頃から友梨奈さんはいじめのターゲットにされていたということになるのかしら?」

「結衣ちゃん、そういうことになるね」

「………………」

「そういえば、その頃はエリカも聡くんのことを狙っていたんだよね」

「そうだったの!?」


 早紀は結衣の問いに答えると同時に結衣(彼女)は黙り込む。

 結衣はエリカ達の中で聡を狙っていた者がいたのだろうか?

 いや、彼女ら以外にも彼を狙っていた者はいたと思われる。

 彼女は頭が混乱し始めており、考える時間がほしいと思っていた。

 その時にまひろがふと思い出したように言うと、凪は少し驚いていた模様。


「そうだよ。僕は友梨奈と篠田から告白されたことは事実だよ」


 彼女らの話を耳にした聡は衝撃的な言葉を告げられ、結衣はやはりエリカも彼に告白していたことを知り、ショックを受けていた。



 *



「な、なんか分かってきたような……」


 その場面をタブレット端末から見ていたジャスパーは思ったことがある。

 早紀の話からすると、友梨奈とエリカは聡に告白したが、彼は後者ではなく、前者を選んだ。

 エリカはそれに妬いてしまったのかは不明だが、今年のクラス替えで友梨奈と同じクラスになった者が彼女をいじめに陥らせようとする流れ――。


 よって、友梨奈はいじめのターゲットにされていたのだ。


 現段階では彼が予想していたことはすべて該当しているため、詳しく分からないことが現状である。


「あとはエリカがどのような答えを言うかが焦点になるな……」


 今のところはまだエリカの姿がないため、今後の状態によっては()()()()()となる可能性があるのだから――。



 *



「まあ、僕は友梨奈のことが放っておけなくてね」

「篠田さんを断ったのですね?」

「野澤、そういうこと」

「話を戻すけど……まさか、本当に実行するとは思っていなかった。ボクが……早く……友梨奈ちゃんに……言っていれば……こんなことが……起きずに……済んだのに……!」


 早紀は最後の方は泣き叫んでいた。

 彼女は友梨奈が生きていた時に伝えたかったにも関わらず、早紀は何も言えずにずっと後悔していたと思われる。


「……友梨奈……ちゃん……ごめんなさい……結衣……ちゃん……も……みんな、みんな、ごめんなさい……」


 今では届かぬ、彼女の思いと言葉は友梨奈の代わりに結衣に届いたのかもしれない。


「さ……早紀さん……」

「ボクが……悪いんだ……」

「工藤……」

「ボクの……責任だ……!」


 涙で顔をぐしゃぐしゃに歪ませた早紀が彼女に(すが)るように抱きついてくるため、結衣は彼女をそっと抱き締める。

 静かな教室で早紀は彼女の胸中で子供のように泣き続けていた。

「【原作版】」の「#37」の後半部と「#38」と「スピンオフ」の「#41」の後半部(前半部はカット)をベースに改稿。


2018/11/24 本投稿


※ Next 2018/11/24 19時頃更新予定。

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