#72
友梨奈が「野澤 結衣」として転生後、はじめての登校及び授業が何事もなく終わった。
帰りの学活が終わり、クラスメイトは彼女に「バイバイ」と言い、手を振って部活動や家路に着いていく――。
今現在で教室にいるのは柚葉、まひろ、勇人、結衣の四人。
「さて、学校案内ツアーを再開しましょうか!」
「はい!」
「うん!」
「おーっ!」
柚葉を先頭に三人が拳を突き上げ、反応する。
「じゃあ、行きましょうか!」
その時、結衣は昼休みが終わる間際から少しだけ脳裏に引っかかることがあった。
彼女は訊きたいことがあったら、今のうちに訊いておかないと、あとから後悔することがあるかもしれないと思い、彼女らを呼び止めようとする。
「柚葉さんとまひろさん、一つだけ訊きたいことがございますの」
「ん?」
「何?」
「本日の昼休みの終わりあたりにわたくしのことをなんとお呼びになられたのかが気になりまして……」
「わたしは下の名前だよ」
「あたしは柚葉と同じで「結衣」って言ったけど」
柚葉とまひろは結衣のことを下の名前で呼んでいたのだ。
彼女はまひろが下の名前で呼ぶとは思っていなかったため、驚きを隠せない。
「わたしは基本的に下の名前で呼ぶことが多いからね」
柚葉が下の名前を呼ぶことは納得できる。
なぜならば、彼女は友梨奈が生きていた頃から下の名前で呼んでいたため、聞き慣れていたからだ。
「なんかね……あたしは木野さんが生きてた頃は「友梨奈」って下の名前で呼んであげられなかったんだ。だから、彼女の親戚なら代わりにって言ったら変だけど……あたし、どうしても「結衣」って下の名前で呼びたくて……いいかな?」
まひろが柚葉のことを下の名前で呼んでいたことと同様に結衣にとっては違和感があった。
しかし、本当は彼女も柚葉と同様に「友梨奈」と呼びたかったのかもしれないと察した模様。
「いいですわよ。みなさま、好きに呼んでくださって構いませんわ」
結衣は「木野 友梨奈」として生きてきた頃と同じように変な風に呼ばれることを望んでいない。 彼女は久しぶりに勇人や柚葉達と再会し、楽しく話すことができているため、傷つくような呼び方は控えてほしいから――。
「あたしは遠慮なく下の名前で呼ぶね!」
「わたしも!」
「僕は白鳥さんみたいに「委員長」以外だったらなんでもいいよ」
「えーっ! 学級委員をやってるんだから、「委員長」でもいいじゃん!」
「それだけは勘弁してよー!」
彼女らはわいわいと話していたやさき、早紀や聡達が教室付近にいた。
「結衣ちゃん達、楽しそうだね」
「工藤は野澤に話したいことがあるのだろう? きちんと話さないと」
「……うん……でも、話している途中で泣きそう……」
「大丈夫。早紀ならできるって!」
「凪ちゃん……」
「話している途中で辛くなってきたら泣いてもいい。野澤なら分かってくれるはずだ」
「秋桜寺くん……」
彼女らは楽しそうに話している結衣達をよそに深刻そうな表情を浮かべている。
第二の修羅場が始まるのは時間との戦いのようだ。
「【原作版】」の「#35」(「#36」と「#37」の前半部はカット)と「#37」の後半部の最初の場面をベースに改稿。
後半部は書き下ろしエピソード。
2018/11/23 本投稿
※ Next 2018/11/24 0時頃更新予定。




