#70
彼は「瞬間移動」で友梨奈達が通っている学校の食堂に到着した。
「バッドタイミングでしたね……」
「ジャスパー先生!」
ここまでの経緯をタブレット端末からリアルタイルで見ていたジャスパーは彼女の前では知らないふりをしなければならない。
一方の友梨奈にとってはグッドタイミングである。
なぜならば、彼は時間を止め、ぬっと現れるため、「野澤 結衣」という架空の人物から本来の「木野 友梨奈」に一時的に戻ることができるため、つかの間の休憩時間となるからだ。
「まるで修羅場みたいだ……」
「そうですね」
ジャスパーは普段の生活で話している口調なのにも関わらず、彼女はそれに気にせずに、普段通りに相槌を打っている。
「友梨奈さん、ちょっと……」
「はい?」
「彼女はおそらく重要な手がかりを持っていらっしゃると思いますよ?」
「篠田さんですか? やっぱりそう思いますよね!?」
「さぁ……それはどうでしょう……」
彼は先ほど推測してきたことを彼女に告げた。
その時、ジャスパーと友梨奈は同じ考えを持っていたとは思っていなかったため、少し驚いた模様。
彼女は最近の彼は酷く、少し矛盾していると感じていた。
友梨奈はやはり、エリカが絡んでいたのかどうかは曖昧なところである。
「僕はあなたにヒントを与えただけです。それを見極めるのは友梨奈さん。あなた自身ですよ?」
しれっと彼女にそのように言うジャスパー。
友梨奈は「……そうでした……」と少し落ち込んでしまったようだ。
このことについて彼が何か重要なことが分かったとしても彼女に完全な答えを教えることができない。
今後は友梨奈がその答えを見つけ出さなければならないのだから――。
「あっ、変な質問をしてもいいですか?」
「どうぞ?」
「……やっぱり、いいです……」
「……いいのですか?」
「はい」
「さて、僕もそろそろ解析を始めなければ……」
「解析?」
「……いえ……友梨奈さんのことではありませんので、ご安心を」
「はいー!?」
彼女は悩んだ末、ジャスパーに質問することを止めてしまった。
なぜならば、「もし、目的が果たされたらどうなるのか」が気になり、その瞬間に到達した時には本当に死んでしまうのではないかと不安になったから――。
彼が話していた「解析」は友梨奈の今後の人生に関わってくることであるため、彼女が不安になることは仕方がない。
友梨奈にとっては「えーっ!? 何それー!? 私にとって、それは重要なことですよ!」と言いたくなるのかもしれない。
「あははは……それだから友梨奈さんは面白いのです」
「それはどうも」
ジャスパーは先ほどの彼女が言った「はいー!?」が面白かったため、つい笑ってしまっていた。
友梨奈は彼に対し、適当に相槌を打つ。
周囲は時間が止まっており、二人だけで話している状態のため、変な空気が流れていた。
「ところで、話は変わりますが、昼食後の友梨奈さんのクラスは体育なのですね?」
「そうですよー」
「急がなくていいのですか?」
「うっ……ちょっとヤバいかもしれません!」
「その通りですね。お友達も移動や授業の準備などの時間がありますので、急いだ方がいいと思います」
彼女は食堂にある壁時計を見て焦りを感じ始めている。
時計の針は十三時十分を指しており、五限目が始まるのは十三時三十分からのため、急がなければならない状況だ。
「ですよねー」
「さて、僕は戻りますかね……」
「もう戻るんですか?」
「ええ。一応はこちらも休憩時間ですので、少し様子を見にきただけです。では」
ジャスパーは緊急手術を終え、リアルタイムで現在の様子を確認し、友梨奈のところにきているため、昼食は残念ながらまだ取れていないのだ。
「早く戻らなければ、午後の診察が始まってしまう……」
彼は「瞬間移動」で速やかに診察室へ戻る――。
一方の友梨奈は心中でいろいろと揺らいでいた。
本当にエリカ達が張本人なのかどうか。
他のクラスの生徒なのかどうか――。
アレが正しいのか、コレが正しいのか……といろいろと考えているうちに、頭がこんがらがってしまっている自分がいる。
その解答を出すその時まで――。
「【原作版】」の「#33」と「スピンオフ」の「#39」をベースに改稿。
2018/11/22 本投稿・修正
※ Next 2018/11/23 0時頃更新予定。




