#6
友梨奈が柚葉に連れられてきた場所は図書館。
図書館司書が学生達から返却された本を満載にした台車をガラガラと慌ただしい音を立てながら、整理しているところにそこの扉が開いた。
まだ昼休み等ではないため、学生達の姿はなくて当然のことだと思っていた図書館司書は突然入ってきた彼女らを見て驚いている。
二人は隙間を空けずに、椅子に腰かけた。
「友梨奈、突然教室から連れ出してごめんね」
「ううん、いいよ」
「ありがとう。ちゃんと先生に許可を得たから大丈夫!」
「もう、先生と何を話してたと思いきや……」
「ところで、その……大丈夫? 辛かったよね?」
「……うん……」
「わたしはいつでも友梨奈の味方だからね。何かあったらなんでも言ってね」
「……柚葉……」
「なんかお世辞を言ったと思ってるかもしれないけど、本心だからね!」
柚葉は彼女をそっと包み込むような口調で話し、友梨奈はずっと堪えていた涙が頬を伝っていた。
「……ありがとう……」
「どういたしまして。いっぱい泣いてすっきりしてから教室に戻ろう?」
「そ、そうだね」
柚葉は彼女が落ち着くまでずっと一緒に図書館にいるが、どのくらいの時間が流れたのは分からない。
彼女が友梨奈が落ち着いたタイミングを見計らって何度も声をかけようとしたが、その機会はないに等しいにすぎないと感じていた。
柚葉は「友梨奈、大丈夫?」と声をかけ、彼女は「ん?」と返事をする。
「教室に戻れそう?」
「……うん……柚葉、本当にありがとう」
「また何かあったら教えてね」
「分かった」
「じゃあ、戻ろうか?」
友梨奈は静かに頷き、柚葉が「よいしょ」と言いながらゆっくりと椅子から立ち上がった。
あとに続けるかのように彼女も椅子から立ち上がり、彼女らが教室に戻ろうとした時、図書館の扉がそっと開いた。
「あっ、先生だ」
柚葉が扉が開いてある方を見ると、彼女らの担任である早川がそこにつかつかと入ってくる。
「木野さん、私が頼りなくてごめんなさい……」
「先生……」
早川は友梨奈に向かって頭を下げてきた。
しかし、彼女は「先生、私に頭を下げてまで謝らないで」と言いたかったが、本人の目の前では言い出せない。
友梨奈の中でも芽生えた様々な感情が再び涙となって溢れ出てくる――。
「あー……友梨奈、また泣いてる……」
「木野さん、泣かないで。あなたが泣いてるとお姉さんが悲しむよ?」
「……すみません……」
彼女は「友梨香が交通事故で亡くしたあと、私が前向きに生きていかなくてはいけないこと」を早川によって思い出されたようだった。
「木野さん、まだ三年生は始まったばかりだよ? これから、楽しいことが待ってると思うから……」
「……はい……」
「もし、何かあったら荒川さんや学級委員の松井くんとかに相談してね。私は先生として頼りないけど、木野さんの味方だから!」
「ありがとうございます」
「もうそろそろ、授業が始まるから、二人は教室に戻ってね」
彼女は右手の腕時計を一瞬見、彼女らに早く教室に戻るよう促す。
「「はい」」
友梨奈達はしぶしぶ、図書館から教室へ戻った。
*
同じ頃、教室では……。
友梨奈のクラスメイトの男子生徒が教室の隅に集まっている。
「もし、木野 友梨奈が教室に戻ってきたら何やる?」
「いつも通りでよくないか?」
「俺も!」
「また消しゴム? それだったら机とかの落書きは?」
「それ、いいね!」
「だろ?」
「あとは画鋲を椅子に綺麗に乗せようぜ!」
「準備が大変だろ?」
「なになに? 楽しそうじゃん?」
ワイワイと話している男子生徒に紛れてエリカがその中に加わった。
「篠田か。これから何やるか考えてたんだよ」
「さっすが、ウチがその話を持ちかけてよかったわ!」
その話を横目に勇人は溜め息をつき、呆れながら一限目の準備を始めた。
「【原作版】」の「#4」の最後の場面と「#5」の前半部をベースに改稿。
2017/09/05 本投稿