#68
「結衣ちゃん、どうしたの?」
「前の学校で何かあった?」
早紀と凪は泣いている結衣を心配して声をかけた。
しかし、彼女らは彼女がそのようなことを思っていることは知らない。
「……いえ……前の学校は何事もありませんでしたの。ただ、友梨奈のことで……」
結衣は制服のポケットからハンカチを取り出し、涙を拭く。
友梨奈自身のことにも関わらず、このようなことに涙を零すとは思っていなかった。
「結衣ちゃんは友梨奈ちゃんの親戚だもんね。いろいろと大変だったんだね」
「ええ。友梨奈が生きていた時、みなさまは彼女にこのように接していらしたのね?」
「……うん……」
「友梨奈が亡くなる十日くらい前まではね……」
早紀は椅子から立ち上がり、結衣の頭をポンポンと優しく叩く。
彼女は柚葉達に問いかけ、まひろと彼女が答えてくれた。
「なんかさ、僕のせいで友梨奈が飛び降りたのかなと思っていた」
「……秋桜寺くん……」
「確か、理科の授業で移動する時だったかな? 友梨奈が髪と制服を濡らして歩いていた時、彼女は僕に助けを求めてくるかなと……」
「………………」
「本当は友梨奈自身が一番辛かったのに、彼女はずっと我慢していた。僕から「我慢しなくていいんだよ」と言ってあげられなかった……」
聡はいつもの優しい笑顔とは打って変わって、まるで寂しそうな口調で後悔したような表情で話していた。
彼はその段階ですでに気がついていた模様。
聡は自分から友梨奈に助け舟を出そうとしていたが、彼女は別れるというかたちでそれを振り払ってしまったのだ。
彼は何も悪いことはしていないと思い、彼女は自分を責め始めていた。
「わたしも友梨奈に酷いことをしちゃった……」
「あたしも……」
「あたしにも責任があるかもしれないなぁ……」
「僕もさっき教室で話した通りだよ」
柚葉、まひろ、凪、勇人は暗い表情をしている。
本当は友梨奈には自ら命を絶ってほしくなかったと彼女らの中で思っていたようだ。
「でも、友梨奈ちゃんはもう還ってこないけどね」
「今になって謝ったり公開したりしても遅いし……」
「野澤も友梨奈と仲がよかったのに、申し訳ないな」
「「ごめんなさい」」
早紀とまひろ、聡が一言ずつ結衣に告げると、全員で頭を下げて謝ってくる。
彼女は周囲を見回すと他の学生達が彼女らを変な目で見ていた。
「みなさま、頭を上げてくださらない? 周りの方々が変な目でこちらを見ていらっしゃるので……」
「おおっ」
「本当だ」
「恥ずかしいところを見られちゃったねー」
結衣がこう言うと、彼女らが頭を上げる。
彼女の周囲からはくすくすと笑われ、後に聡達も笑いが起きていた。
「なんかしょっぱい雰囲気になってきちゃったから、そろそろご飯を食べよう?」
「そうだね」
「「いただきます!」」
彼女らはおぼんの上に置いてあった箸やスプーンを手に取り、それぞれ食べ始める。
「オムライスが冷めちゃった……」
「親子丼も冷めてしまいましたわ……」
「サラダうどんが少し温くなっちゃった」
柚葉、結衣、まひろがぼやきながら箸を進めていた。
友梨奈にとっては誰かとともに食べた美味しい学食は懐かしく、楽しいと思っている。
彼女はこれからも彼らと楽しく会話したりしたいと望んでいた。
*
「……あっ……」
緊急手術を終え、診察室に戻ってきたジャスパーは何かを忘れていたことに気がついた。
「録画設定をし忘れてしまった……」
彼は緊急手術のため、タブレット端末を録画モードに設定せずに電源を切ってしまった関係上、友梨奈達の学校案内ツアーをしている様子が分からない。
「彼女らは今頃、昼食を取っているはず……例の学校案内ツアーの間に友梨奈さんは何か分かったことはあったのだろうか……?」
ジャスパーは机の中からそれを取り出し、電源を入れてみたところ、学校案内ツアーは完全に録画されていなかった。
「やはり、録画はされていなかったか……って……修羅場に入ろうとしているではないか!?」
彼がタブレット端末の電源を入れた途端、画面に映し出されていたものは大きな伏線になりそうな修羅場が起きようとしていた。
「【原作版】」の「#31」と「スピンオフ」の「#37」の後半部(前半部はカット)をベースに改稿。
2018/11/20 本投稿
2018/11/24 修正
※ Next 2018/11/21 0時頃更新予定。




