#67
親子丼とサラダうどん、ミックスフライ定食――。
結衣は柚葉と勇人に見守られながら三種類のうちのどれにしようか迷っていた。
「木野 友梨奈」として生きていた頃もお世話になっていた学食。
それが結衣として転生されても食することができるという嬉しさがあった。
また、学食はとても美味しいからということもあるが、今の彼女にとっては久しぶりに何人かと食事をすることが楽しみであることの方が大きい。
「じゃあ、わたくしは松井くんと同じく親子丼にしましょう」
「おっ、野澤さんも親子丼か。僕のこと、分かっているね?」
「いいえ。とても美味しそうでしたから」
結衣は先ほど彼が親子丼は「卵がふわっとしていて美味しい」と話していたことを思い出す。
友梨奈は学食の中でそれが一番好きであり、よくサラダとともに食していた。
そのため、転校してきてはじめての学食のメニューに親子丼があったことが何よりも幸せな気分である。
「僕は親子丼単体にする」
「そ、それは少し栄養バランスがよろしくなくて?」
「あははは……そうだよね。僕はほうれん草のおひたしをつけよう」
「松井くんが冗談言っているー。まひろにも聞かせてあげたかったなぁ」
「松井くんが冗談を言うことは珍しいことですの?」
「超レアだよ! 普段はあまり言わないもん!」
勇人はそのようなことを言ったため、柚葉がくすっと笑っていた。
友梨奈は彼が冗談を言うところははじめて見かけたため、意外な一面が見ることができたような気がする。
結衣と勇人は親子丼とサラダまたはほうれん草のおひたし、箸をおぼんの上に乗せた。
「さてさて、まひろはわたし達の席は取れたかな?」
「どうでしょうね?」
「まずは行ってみようか」
彼女らはまひろがいるところを探し始めた時、彼女は結衣達を見つけ、手を振っている。
彼女がふと気づくと、まひろの近くに早紀や凪、聡の姿もあった。
「柚葉ちゃん、遅かったね。その子がまひろちゃんが言っていた野澤 結衣ちゃん?」
早紀が柚葉に問いかける。
彼女は「そうだよ」と答え、まひろが「木野さんの親戚なんだってー」と補足説明を入れた。
「友梨奈の親戚なの!?」
「友梨奈の親戚なのか!?」
「友梨奈ちゃんの親戚なの!?」
凪達は驚いた表情で同じ言葉を柚葉の後ろにいる結衣を見ながら言ってくる。
「え、ええ」
「す、座って話さないか? 通路が塞がっているからさ」
聡が彼女らの後ろを指を指したのは数珠つなぎになっており、少し迷惑そうにしていたからだ。
「「そうだね」」
「すみませんでした」
結衣は自分の後ろにいる女子生徒に謝り、彼女らは空いている席に適当に座る。
彼女の隣は偶然にも彼だった。
「荒川さんと白鳥さんと僕は自己紹介を済ませているから、秋桜寺くん達、お願いね」
「ああ。荒川や白鳥達は同じクラスだもんな。僕は秋桜寺 聡」
「あたし、新井 凪。呼び方はなんでもいいよ!」
「ボクは工藤 早紀だよ」
「わたくしは野澤 結衣と申します。よろしくお願いいたします」
聡から順番に自己紹介していく。
友梨奈は「野澤 結衣」として転生したのにも関わらず、彼らとははじめて会話した気にはならなかった。
その時、彼女の父親や母親も同じようなことを話していたため、今さらではあるが、それが少し分かったような気がした模様。
「「よろしくね」」
「よろしく」
聡の優しい笑顔に凪の無邪気な声、そして、早紀のおっとりとした話し方――。
彼らは全く変わらなかったため、結衣の身体である友梨奈は思わず涙を零していた。
なぜならば、彼らは彼女が周囲から避けられる前と同様に接してくれたから――。
「【原作版】」の「#30」をベースに改稿。
2018/11/20 本投稿
※ Next 2018/11/20 19時頃更新予定。




