#66
ジャスパーが緊急手術を行っている頃には友梨奈達は教室から出ていた。
「まず、あたし達が今いるところは中等部教室棟の二階。一階は一年生で三階は二年生の教室だよ」
「僕達の教室の目の前にはコンピューター室。二組から四組のところにある広々とした場所は多目的スペースだよ。各学年に同じような広い空間があるんだ。三階の二年生の前に理科室があるけど、授業で使う時に案内するね」
まひろと勇人が結衣に説明する。
その隣で柚葉は何か言いたいことがあったのか少し落ち着きがない。
「荒川さん、どうされましたの?」
「あ、あのね……」
「少し気になりますわね……?」
「野澤さんは知らないと思うけど、わたし達のクラスは問題児が多いとかの噂があって……」
「確か、友梨奈さんが亡くなったあとかな……報道関係者がたくさんきたこともあったよ」
彼女は申し訳なさそうに閉ざしていた口を開き、勇人も友梨奈が亡くなったあとのことを話してくれた。
「存じ上げていますわ」
「「えっ?」」
つい最近まで「木野 友梨奈」として通っていたこの学校。
彼女が生きていた頃はこのクラスの現状を理解した時にはすでにいじめの標的になっていた。
そして、友梨奈が飛び降りたあとはたくさんの報道陣からの取材が殺到していたため、担任の早川などが取材に応じていたところを入院していた病院の談話室のテレビで見ていたため、それらのことは知っていた。
「わたくしは友梨奈さんと連絡を取り合っていましたので。少しだけですが、お話を伺っていましたし、そのニュースも病院で拝見させていただきましたわ」
「……そうなんだ……」
「結衣さんと友梨奈って仲よしだったんだね……」
「ええ」
友梨奈は勇人達に結衣が自分であることを知られないようにするにはそれしか方法は見つからなかった。
彼女は三人に誘導されるがままに体育館や図書館、講堂などを見て回る。
「ここが食堂だよ。一旦、休憩しよう?」
柚葉が疲れた表情をしながら、制服のポケットから学生証を取り出した。
彼とまひろも賛成しており、頷いたり相槌を打ったりしている。
「柚葉はこれから部活もあるんだから、その分の体力を残しておかないと駄目だよ」
「……そうでした……あっ、野澤さんは学生証、持ってる?」
「ええ、持っていますわ」
結衣は柚葉にそのように言われ、ポケットの中から自分の学生証を取り出した。
それは友梨香や友梨奈のものではなく、彼女の名前がきちんと書かれているものとなっている。
「早川先生は忘れてなかったみたいだね。彼女はたまに抜けてるところがあるからさ。学生証をここにかざしてみて。ピッと音が鳴ったら注文することができるよ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
彼女に続けてまひろ、結衣、勇人の順に学生証をかざし、学生の列に並び、おぼんを手に取り、受け取る順番待ちをしていた。
「すみません。オムライスはまだありますか?」
「最後の一皿だよ」
「やったー! ありがとうございます」
「柚葉ー! サラダうどんもまだ残ってた!」
「よかったじゃん!」
「うん!」
柚葉は最後の一皿となっていたオムライスとサラダをおぼんに乗せ、スプーンを手に取る。
ふわっとした卵の上にオリジナルのソースがかかっており、パセリがちょこんと添えてあった。
まひろも何皿か残っていたサラダうどんと箸を手に取る。
透明な容器の下の方にうどんとつゆが入っており、その上にはレタスやキュウリ、トマト、ゆで卵が彩りよく乗っていた。
「じゃあ、あたしは場所を取りに行ってくるね!」
「あいよー! 野澤さんはゆっくり決めていいからね」
「はい」
彼女は四人分の席を確保するため、三人から離れる。
柚葉と勇人は結衣が選び終わるのをじっと見ていた。
「【原作版】」の「#29」の後半部をベースに改稿。
2018/11/19 本投稿
※ Next 2018/11/20 0時頃更新予定。




