#65
ジャスパーは診察室に戻ってきたあと、友梨奈とのやり取りのあとの場面を見返していた。
「はぁはぁ……」
「結衣さん?」
「どうしたの?」
「大丈夫?」
結衣が息を整えている時、まひろ、柚葉、勇人の三人が心配して声をかけている。
彼女は首を横に振りながら「いいえ、なんでもありませんわ」と答えた。
「こ、これは間違いなく僕が原因ではないか!?」
その時、彼は友梨奈が素っ頓狂な返事をしてきた原因がようやく判明する。
おそらく友梨奈はいきなりジャスパーが姿を現したため、驚かせてしまったのかもしれないと――。
「友梨奈さんには心臓によろしくないことをしてしまって申し訳ない……」
彼はタブレット端末から視線を逸らして反省している。
そこからは楽しそうに話している三人と結衣の姿が映っているが、彼女らの声は耳に入ってこなかった。
*
ジャスパーが視線を逸らしていた頃の場面はこのような会話をしていた。
「――――なら急いで行こう。ぼやぼやしているとわたし達のご飯がなくなっちゃうからね!」
「柚葉ー、今日は食い意地があるねー」
どこか焦っている様子の柚葉とからかうように突っ込みを入れているまひろ。
友梨奈が気づいた頃には彼女らは互いの下の名前で呼び合っていた。
彼女は自殺する前から気がついていたが、二人は凄く仲がよくなっているように感じている。
「今日の学食のおすすめメニューはオムライスだもん! まひろも食べたいでしょう? オ・ム・ラ・イ・スー!」
「あたしはサラダうどんが目当てなんだけどなぁ……」
「松井くんは?」
「僕は親子丼かな。卵がふわっとしていて美味しいよ」
「じゃあ、野澤さんは?」
「わたくしはメニューを拝見させていただいてから決めようかと……」
「そうだよね。転校したばっかりだから仕方ないよね。食堂に着いたらじっくり選ぼう?」
「ええ」
「よりによって、食べたいメニューがバラバラ……」
柚葉ががっかりしていると、勇人から「早くしないと昼休みが終わっちゃうよ」と言われてしまった。
「では、改めて学校案内ツアーの始まりだ!」
「「おーっ!」」
彼女らは昼食を兼ねた学校案内ツアーを本格的に始めようとしている。
ジャスパーがタブレット端末に視線を戻し、四人を追おうか悩んでいた時、診察室の扉を叩く音が聞こえてきた。
「急患ですー!」
「はい、どうされました?」
彼は扉を開けると、看護師が慌てたような様子で入ってくる。
しかし、タブレット端末からは微かに音声が流れている中、彼女は気にせずに用件を伝えようとしていた。
「先生、今から手術に入れますかー?」
「他の医師は?」
「実は……他の医師はほとんど診察や診察なのでー……」
「なるほど……承知しました。すぐに駆けつけさせていただきますね」
「ありがとうございますー!」
「ところで、肝心の場所は?」
「あっ、第二手術室ですー! 失礼しましたー!」
語尾を伸ばす特徴的な看護師から緊急手術を告げてくる。
彼は友梨奈達の学校案内ツアーを見たかった。
しかし、緊急手術が入ってしまったのは仕方がないため、ジャスパーはタブレット端末の電源を切り、机の中にしまう。
診察室の戸締まりをし、速やかに第二手術室へ向かった。
彼がタブレット端末を録画設定にしておくことを忘れたことに気づくその時まで――。
「【原作版】」の「#29」の前半部と「スピンオフ」の「#36」の後半部をベースに改稿。
2018/11/18 本投稿
※ Next 2018/11/19 0時頃更新予定。




