#63
勇人は結衣の方を見ている。
先ほどまでの笑顔から一変して複雑そうな表情を浮かべていた。
「どうされましたの?」
「実は……その席は亡くなったクラスメイトの席なんだ……」
彼女が彼に問いかけると、どこか寂しげに、少し言いづらそうに答える。
やはり、友梨奈が生きていたならば勇人の隣のこの席になる予定だったことを改めて実感した。
「僕が……僕が周りをよく見ていれば、彼女は自ら命を絶たずに済んだのに……」
「松井くん、でよろしかったかしら?」
「あ、うん。そうだけど?」
「……わたくしはその人の親戚にあたる者ですの」
「「えっ!?」」
「野澤さんが木野さんの親戚?」
「マジで!?」
「あの女と血が繋がっているわけ?」
「嘘だ! ありえない!」
「つーか、全然似ていないよねー」
「そうだよねー」
彼は過去の自分を反省している時に、結衣は勇人にさらっとそのように告げると周囲から本日何度目かのざわめきが起きる。
彼女は「ええ、そうよ」と友梨奈の親戚及び従姉妹であることをアピールしていた。
なぜならば、今は「木野 友梨奈」という人物は存在しないが、魂だけは存在している身である。
また、彼女自身であることを隠さなければならないから――。
「木野さんの親戚ならば、告別式に参加してたはずだよね?」
「会場にはこんなに可愛い子の姿はなかったし……」
「本当に野澤さんって木野さんの親戚なの?」
まひろと柚葉は結衣が友梨奈であるということが分かっているような口ぶりで非難の目を向けている。
勇人が「白鳥さんと荒川さん、止めなよ」と結衣を庇った。
「何か事情があったから、野澤さんは告別式に出られなかったんだよね?」
「はい。実はわたくしは持病の関係で入院していまして……」
「なるほど」
「だから会場にいなかったんだね」
そのようなことを疑っていた彼女らは事情を聞いたことにより、あっさりと認める。
「ところでさ、木野 友梨奈が死んだだろう?」
「それで、野澤さんというこんなに可愛い子が転校してきただろう?」
「俺達はラッキーだよな!」
「ああ!」
このクラスの一部の男子生徒がゲラゲラと笑いながら結衣に向かって指を指した。
「人に向かって指を指すことを止めなさい?」
彼女は泣きたい気持ちを抑え、彼らに向かって力強く言う。
友梨奈は結衣の身体で泣いてしまったりしたならば、過去の自分に逆戻りし、せっかく前世に戻してもらった意味がなくなってしまうのではないかと思っていた。
「は、はい!」
「す、すみませんでした!」
男子生徒達は彼女に素直に謝ってくる。
今までは彼らがすぐに謝ってくることはあり得なかったため、友梨奈の心中では清々しく感じていた。
「さて、どなたでも構いませんが、わたくしにこの学校を案内してくださらない? さあ、今すぐに!」
結衣はクラスメイトの視線を浴びながらこう告げていた。
言った本人である友梨奈は言い過ぎたかと思ったが、仕方がなく開き直ることにしたようだ。
「僕が!」
「あたし達が!」
彼らは互いの顔を見回している中で柚葉とまひろ、勇人の三人が挙手している。
「ならば、わたくしを含めて四人で行きましょう」
「「四人で!?」」
「ええ。もし嫌でしたら、他の方に頼みますので」
「「……はい……」」
結衣がそのように言うと、彼女らはしぶしぶと返事をした。
本来ならば結衣は友梨奈であるため、案内する必要はないが、彼女から申し出たのだから――。
ここは勇人や柚葉達にきちんと案内してもらおうと思っていた。
「【原作版】」の「#27」と「スピンオフ」の「#33」の後半部をベースに改稿。
2018/11/17 本投稿
※ Next 2018/11/18 0時頃更新予定。