#60
友梨奈が「野澤 結衣」として入院をしている間に自分の葬儀及び告別式が終わっていた。
友梨奈の両親が落ち着くまでの期間はリハビリや今までの授業の遅れを取り戻そうと勉学に励んでいる結衣。
彼女は談話室でカップに入った冷たいココアを飲みながら国語の教科書を読んでいた。
「おっ! 結衣ちゃん、いたいた!」
大声で結衣を呼ぶ声が耳に入ってきた。
彼女はよく「病院では静かにしましょう」と言われていることをその人物は忘れているのではないかと思っていたが、その声の主は聞き覚えのある友梨奈の父親だったのである。
「こんにちは、おじさま」
結衣はにっこりと微笑みながら、彼に挨拶をする。
「こんにちは。さっき、先生が退院の日を言ってたよ?」
もしも友梨奈ならば、「やったぁ! 退院できる! いつ?」と言いたかったが、今は結衣なので、このような口調に変換されてしまうのだ。
「明後日だってさ。次の日から学校に行ってもいいでしょうって言ってた」
「退院して次の日から……」
退院して翌日から学校に行かなければならないということは友梨奈が通っていた学校の転校生という扱いなのかと思うとなんか複雑である。
「あっ、前の学校で嫌なことがあったのか?」
「え、ええ……実は前の学校で吹奏楽部でクラリネットをやっていたのですが、なかなかコンクールメンバーに入れませんでしたの」
結衣の身体でありながら嘘をついてしまったが、こればかりは仕方がない。
「結衣ちゃんもクラリネットやっていたのか。逝ってしまった友梨香と友梨奈も吹奏楽部だった」
「2人とも、クラリネットを演奏されていらしたのですか?」
「クラリネットは友梨奈だけ。友梨香はフルートだった。そうだ、もしよかったら、このクラリネットを君に託そう」
「そ、それは友梨奈さんの……」
友梨奈の父親の手には自分が使っていたクラリネットが入ったバック。
それを彼女に手渡してきたのだ。
「使わずにずっと放置しておくより、誰かに使ってほしいのさ。きっと、友梨奈もそれを望んでいると思うんだ」
「おじさま……」
結衣は嬉しくなり、目から一筋の涙が零れた。
なぜならば、彼は実の娘の遺品として遺しておいてくれたから――。
友梨奈は楽器を売らないで取っておいてくれてありがとうと感謝したかったが、心中でしか言えない現実があった。
*
「ついに、友梨奈さんは退院するのですね……」
ジャスパーが友梨奈を前世に戻してからあまり時間が経っていないはずだ。
彼らがはじめて出会った頃からすると、あっという間だったような気がするかもしれない――。
「確か、病院を退院したあとは友梨奈さんの自宅から彼女が通っていた私立花咲大学付属中等学校へ通わせてほしいといった要望だったはず……」
彼は事前に彼女に書いてもらった「要望書」を見る。
これから結衣は友梨奈が通っていた中学校に通うことになるのだ。
時期が時期のため、「今頃になって、転校生?」と思われるかもしれないが、こればかりは仕方がないことである。
また、場合によってはわずか数日で転校という可能性もあるかもしれないのだ。
「あなたがどのような展開を歩むとしても、僕はつき合わせていただこう……」
ジャスパーは引き続き彼女を見守る。
たとえ結衣に転生した友梨奈がどのような展開を歩むとしても――。
*
そして、無事に病院を退院し、久しぶりの我が家へ戻った結衣は次の日の学校の準備を始めた。
いつの間にかに自室の机の上にはすでに新しい教科書が届いていたと同時に、今までの嫌な記憶が蘇る――。
しかし、彼女は「自殺する前までの伏線回収するために客観的に見ていき、できたらハッピーエンドにする」と誓った。
友梨奈の中ではここまできてしまったからには完全に後戻りできないことは分かっている。
彼女は後悔しないよう、第二の人生のスタートラインに立った。
「【原作版】」の「#24」と「スピンオフ」の「#32」の前半部をベースに改稿。
2018/11/15 本投稿
※ Next 2018/11/16 0時頃更新予定。