#59
友梨奈は今後の生活をどのようにして過ごしていくか悩んでいた。
ジャスパーは「自殺する前までの辛い記憶を再生して客観的に見ていく」か「転校するところから始まって自殺する前までの伏線回収するために客観的に見ていく」かという二つの選択肢を用意した。
もちろん、それら以外の第三の選択肢でも構わない。
彼女の行動によってはバッドエンドに転ぶかハッピーエンドに転ぶかが懸かっている。
たとえ友梨奈がそれら以外の選択肢を選んだとしても、最後までの展開がどうであろうとも、彼はそれにつき合わなくてはならないのだから――。
「友梨奈さん、あなたは復讐することに関しては検討されていらっしゃらないようで?」
「はい」
「珍しいですね? 「復讐しない悪役令嬢」だなんて……」
「そ、そんなにおかしいですか!?」
「おかしいも何も……「悪役令嬢」は主人公と敵対するお嬢様という意味ですよ? あなた自身を庇ってどうするのですか?」
彼女は「悪役令嬢」という言葉を意味を含め、はじめて聞き、ジャスパーは楽しそうに笑っているが、心底では「彼女は「悪役令嬢」という言葉を知らないのか……」と呆れていた。
友梨奈は不満そうに頬を膨らませながらふと思い出したことがある。
彼女は要望書の性格を書く欄に「見た目と違い、ギャップがある性格。例えば、自分の意見をはっきり言えるなど」と書いた記憶があった。
それは今までの自分を卒業したいという意味で書いたことを――。
「私、決めました」
「どうされるのですか?」
「私は後者である「転校するところから始まって自殺する前までの伏線回収するために客観的に見ていく」で、できたらハッピーエンドにしていきたいと思ってます!」
友梨奈は顔を赤くなるほど恥ずかしい思いをしながら彼に告げた。
ジャスパーの懐中時計の針はまだ動いていないため、彼女の母親や看護師に聞かれていない。
「友梨奈さん?」
「……ハイ……」
彼は友梨奈の顎に左手を添え、クイッと上げる。
二人の視線がぶつかった。
ジャスパーの手はほんのりと温かいが、まるで氷のように冷たい視線で見つめてくる。
彼自身は本当はそのようなことをすることが苦手でできるだけしたくはなかったが、彼女は必死に彼から視線を逸らそうとしている。
「それでよろしいですね? 僕が挙げた二つの選択肢以外でもいいのですよ?」
「私の意思は変わりません。それに転生されたとしてもどうなるか分かりませんし、目的も果たせないかもしれませんので」
友梨奈は第三の選択肢を選んでもよかったのだ。
しかし、彼女はその選択肢を選んだことによって後悔しておらず、はっきりと自分の意思を告げられたような気がした。
たとえ、転生されたとしても目的がきちんと果たされるかは分からない。
それでも友梨奈は悩んだ末に出した答えだということだから――。
「現実的なご意見を感謝します。また、僕から何かございましたらこのように伺うか、置き手紙を残すかしますので」
ジャスパーは彼女にそう言い残すと「瞬間移動」で彼が勤務している病院の診察室に戻り、「時間操作」を解除した。
「【原作版】」の「#23」と「スピンオフ」の「#31」をベースに改稿。
2018/11/14 本投稿
※ Next 2018/11/15 0時頃更新予定。