#5
始業式が終わり、あっという間に二週間が経過したある日のこと――。
同学年の一部で流れていた噂が当たってしまう出来事が起きることになる。
「はーい。みんな、席に着いてー。朝の学活を始めるよ」
チャイムと同時に友梨奈のクラスの担任である早川 瑞恵が入ってきた。
彼女は教師になってまだ五年目と若い女性で生徒ともの年齢が近いと言うこともあり、絶大な人気がある。
また、早川は家庭科の担当教諭のため常にポケットに可愛い刺繍が施されている白衣を着用しているのだ。
「そこ、おしゃべりと化粧を止めてねー」
「はーい!」
「分かりました!」
「「はーい!」って言った割にはまひろは化粧してるー」
「ちょっとー。エリカだって人のこと言えないじゃん!」
ほとんどの生徒は自席についているにも関わらず、一部の生徒はおしゃべりをしたり、エリカやまひろのように化粧をしたりしている。
しかし、彼女らは元気よく返事をするが、それらを再開し始めた。
その時、友梨奈はあることに気づいてしまった。
やはり、その噂は本当だった。
もしかしたら、この光景はよくテレビのニュースなどで見かける「学級崩壊」の前兆ではないかと――――。
彼女がこう思っていた時、後ろの方から何かが肩に当たった。
「痛っ! 誰がやったの?」
友梨奈は自席から後ろの方の席を見回す。
彼女の肩に当たったものは消しゴムをちぎったもの。
「俺じゃないもーん」
「僕じゃないし」
「あたしら、なーんにもしてないよ?」
「ウチやまひろは何もやってないよ」
「「ねーっ!」」
友梨奈は机の上をよく見てみる。
クラスのほとんどは机の上に最低でも筆箱がちょこんとおいてあった。
一方のまひろ達の机には化粧道具やファッション雑誌で埋め尽くされており、「筆箱」というものは出ていない。
「消しゴムをちぎって人に向けて投げるのは止めなさい!」
早川が声を大にして注意をするが、ちぎられた消しゴムは容赦なく彼女に目がけて投げつけられてきた。
男子生徒が勇気を振り絞って「……ねぇ……」と声を震わせながら話し始めようとする。
「松井くん?」
「勇人?」
「……木野さんに向かって消しゴムを投げるのは止めようよ! あと先生がいるんだから、おしゃべりと化粧も!」
勇人と呼ばれた少年が彼らに向かって力強く注意した。
「騒いだり、化粧するんだったら他のところに行けよ!」
「あなた達がいるだけで迷惑なの!」
「おまえらのせいで俺らまで「落ちこぼれ」だの「余り物」だの言われてることを知ってるだろ!?」
「あなた達?」
「おまえら?」
「そうだよ! おまえらいるから迷惑なんだよ!」
「なんだと!?」
「黙れ!」
「お前は大人しく引っ込んでろ!」
ごく一部のクラスメイトと優等生に近いほとんどの生徒が言い争いが始まる。
友梨奈はその光景から視線を逸らし、数秒間俯いていた。
「先生、ちょっと木野さんと人気のないところに行ってきてもいいですか?」
「いいよ。行ってきなさい」
彼女が顔を上げた瞬間、柚葉が早川がいる教壇に行き、小声で話していた。
「友梨奈、ちょっといいかな?」
「うん?」
友梨奈は何も分からずに曖昧に答え、柚葉に導かれるかのように教室からどこかへ向かって歩を進めた。
*
彼女が教室から出たあと、まひろは疲れたような表情を浮かべている。
「まだ始まったばかりなのに面白いわ……」
「エリカ、もう止めようよ……」
「まひろはそのまま演じてればいいんだから!」
「…………」
彼女はファッション雑誌の山の上に覆い被せるように突っ伏せるのであった。
「【原作版】」の「#4」をベースに改稿。
※ 次回更新分より毎週火曜日(月曜日深夜)0時頃更新予定です。
2017/08/29 本投稿
2017/08/29 傍点の位置の修正