#4
そのような噂を同学年からの聞いた友梨奈は愕然としていた。
彼女は中学生活最後の一年間は楽しく過ごす保証はないということを感じていたのだ。
友梨奈と柚葉が今日から属することになった三年六組の教室に不安でいっぱいになりながら入る。
彼女らはもちろんのこと、クラスメイトのほぼ全員が「誰?」と言いたそうにきょとんとした表情を浮かべていた。
「「おはよう」」
「お、おはよう」
「おはよ」
友梨奈達が勇気を振り絞り、彼らに挨拶をしてみると、反応してきたので、何気にいい人達だと判断した。
しかし、彼女の判断は間違っていたことに――――。
*
その日の放課後。
「友梨奈、音楽室に行こう!」
「うん!」
友梨奈と柚葉は部活のため、教室から音楽室へ向かった。
彼女らがいなくなったところを見計らったかのように二人の少女がおしゃべりを始めた。
「ねぇ、まひろ?」
「何、エリカ?」
少女達の名はまひろとエリカという。
彼女らは一年生または二年生の頃同じクラスだったのかは分からないが、仲がよいことが窺えるようだ。
「今年は木野 友梨奈と同じクラスだよ?」
「そうだね。それがどうしたの?」
「ウチが今年のバレンタインの時、秋桜寺くんに告白したことは知ってるよね?」
「うん」
「秋桜寺くんはホワイトデーの日にウチじゃなくて、あの女にプレゼントをあげてたの!」
「またその話? あたしも知ってるから」
エリカがいかにも嫌な表情をしながら話しているのにも関わらず、まひろはその話を聞き流すかのように表情を変えずに淡々と相槌を打つ。
「ウチね、あの時に思ったことがあるの」
「ん?」
「まひろに協力してほしいことがあるんだけどさ……」
「あたしに!?」
まひろは先ほどまでの冷めたような表情から驚きを隠せないようだ。
彼女はエリカが協力してほしいこととは何かと――。
「あの女をハメるのを手伝って」
「手伝ってって言われても……」
「木野 友梨奈をいじめればいいの。ねぇ、友達でしょ? 断ることはしないよね?」
「まぁ、エリカが考えてることはある程度は分かるけど……」
まひろは彼女が考えていることがある程度分かっていた。
「お願い、お願い、おねがーい!! まひろは途中まで囮でもいいから!」
「嫌だよ。中学生活最後の一年間でこんなことをするなんてさ」
「まひろは真面目だからね……まぁ、ウチは遠慮容赦なくやるけどね。このクラスの調子に乗りやすい男子に声かけたりして、そこからクラス全員であの女をハメるの!」
エリカが楽しそうに話す。
しかし、彼女が「もし、その子が自殺とかしたらどうするの?」と問いかけた。
「まぁ、そこまでにならないように加減してさ。二週間後くらいから始めるから、それまでに考えておいてね!」
彼女がこう言うと速やかに教室から出て行った。
まひろは溜め息をつき、「……どうしよう……」と頭を抱える。
「あたしは楽しく過ごせればいいだけなのに……」
彼女は友梨奈と同様に中学生活最後の一年間は楽しく過ごせればいいことを望んでいた。
しかし、まひろはエリカによって、歪まされると感じながら、中立でいつも通りでいこうと決意した。
書き下ろしエピソード。
2017/08/28 本投稿