#47
友梨奈にとってその声はまるで、彼女の知らない世界に誘うような口調の声が耳に入ってきた。
その声は聞き覚えがあるか否かは曖昧なところである。
友梨奈はふと違和感を抱き始めていた。
彼女の身体には何かに包まれているようで温かく、救急車の中か、最悪の場合は未だにコンクリートの上かもしれないと――。
「……ん……?」
友梨奈はそのようなことを思いながらゆっくり瞳を覚ますと、真っ白な天井が視界に入ってきたため、おそらく部屋だと察した。
その部屋は家の電気と同じ明るさではあるが、瞳を開けたばかりの彼女にとっては視界がぼんやりし、現在の状況が理解できていない。
どうしても友梨奈自身が今いるところが知りたいと思い、部屋の中を虚ろな瞳で見回してみる。
壁や天井は白く、彼女の身体が温かく感じたのはかけ布団が敷いてあった。
ようやく、友梨奈はどこかの病室のベッドの中にいることが判明。
「友梨奈さん、ようやくお目覚めですね?」
彼女は先ほどまでは曖昧だったその声に聞き覚えがあった。
「……あっ……ジャスパー先生……」
友梨奈は先ほどの声の主であるをジャスパーを呼び、そのままの状態の瞳で視線を合わせようとする。
「友梨奈さん?」
彼はピンセットに摘ままれた脱脂綿を持ったまま呆然としていた。
ジャスパーは友梨奈の左側に立っているが、彼女は右側を向いているため、二人は対の方向を向いている。
友梨奈はまだ意識がはっきりしないしていないため、どちらに彼がいたか分からなかったとジャスパーは思った。
しかし、彼女は反対側に彼がいなかったことに気づいたのか、左側に向き直す。
「う、嘘……」
「どうされました?」
「嘘!? なんで私は生きてるんですか!?」
「僕が蘇生させました」
「えぇーっ!」
友梨奈ははじめてジャスパーと会った時からなんか怪しいと思っており、彼女は呑気に彼のことを闇医者という人物なのだろうかと思っていた。
一方のジャスパーはもしかしたら友梨奈は異世界に転移したのかと思ったが、きちんと元いた場所に戻ったため、それは違うと判断した。
しかし、今回はその時と異なり、彼女はすでに死んでいるため、そのままの姿できちんと戻るという選択肢はない。
「あの……友梨奈さん、今は傷だらけなので、動かないでください。これから、手当てをしますので」
「すみません。手鏡って……こちらにはないですよね……?」
「ありますよ。もしよかったらどうぞ」
彼は友梨奈に手鏡を渡すと自分の顔や身体をじっと見ている。
顔は額と頬に少し切り傷が、腕や脚にもアザや擦り傷があり、彼女の身体は本当に傷だらけ。
ジャスパーはその様子を見ていると、友梨奈は本当にごく普通の女子中学生だと思っていた。
「……あの……」
「はい?」
「変なことを言ってもいいですか?」
「どうぞ?」
「ここにいるということは本当にパパやママに会えないんですよね?」
彼女は寂しそうな表情を浮かべながら上目づかいで問いかける。
彼は表情を崩さずにこう答えた。
「ええ、その通りです。友梨奈さんは現世では自ら命を絶たれていますので……」
「……そうですか……」
ジャスパーがこう答えると友梨奈は今までのことを思い出している。
彼女はクラス全員からのいじめと両親や先生の前ではいい子を演じなければならないというストレスがきっかけで自殺。
誰一人として、友梨奈が自殺すると告げたわけでもなんでもない。
下手したら体育の授業で校庭にいた高等部の生徒であろう人物の中に目撃者は少なからずいたはずだった。
数分くらい経ったあと、彼女は「もう少し生きたかったなぁ……できれば、おばあちゃんになるまで生きたかったな」と呟く。
彼女の両親はもちろんのこと、誰もが同じことを思ったと思われるその言葉。
今まで一緒にいた人と突然にして会えなくなるということは事実だということを意味しているようだった。
「【原作版】」の「#16」、「スピンオフ」の「#21」をベースに改稿。
2018/11/06 本投稿
2018/11/06 後書き欄修正
※ Next 2018/11/07 0時頃更新予定。
本日は19時にも更新する予定でしたが、最新話の執筆が間に合っていない関係上、明日の0時頃に変更します。
楽しみに待っている方には申し訳ありません。




