#45
その声の主であるジャスパーは友梨奈の近くにいた。
彼が地表に降り立った頃にはすでに彼女はコンクリートの上でうつ伏せの体勢で横たわっている。
「やはり、間に合わなかったか……」
友梨奈の腕や脚には擦り傷や痣がたくさんあり、どこもかしこも痛々しいそうだ。
「しまった! 聴診器を診察室に置いてきてしまった!」
生憎、彼は聴診器を持っていなかったため、仕方がなく友梨奈の制服のブレザーとYシャツの袖を捲る。
ジャスパーはかなり原始的ではあるが、右手の脈拍と胸の動きを見て呼吸をしているかどうかと、持参していたペンライトで瞳孔の動きも確認した。
「……瞳孔も動いていないし、呼吸もしていない。脈拍は残念ながら取れないな……」
彼女は本当に命を落としている。
友梨奈は家族や教師にこれまでの苦悩を誰にも話さず、望まない「無言で自らの命を落とした」のだから――。
彼はおそらく彼女は屋上から飛び降りる覚悟とともにそのようなことをしてよかったのだろうかと後悔したのではないかと推測しながらお姫様抱っこで瞬間移動で移動している。
すっかり冷え切ってしまった友梨奈の小柄な身体。
もう二度と開かない彼女の瞳からうっすらと涙が零れ落ち、ジャスパーの手に触れた。
その涙はとても冷たく感じる。
友梨奈の思いは誰にも届かずに儚く散った。
先ほどまではサイレンを鳴らしながら走行していた救急車が私立花咲大学付属中等学校に入っていく――。
*
「……うーん……あのようなことをして面白かったのだろうか……?」
彼はぼんやりと考えを眩ませていた。
なぜ、彼女のクラスメイトはカンニング疑惑を持ちかけたり、漫画や学園ドラマのようないじめの定番シーンをやったりするなどといった行動や言動についてはジャスパー自身も分からない。
友梨奈はどのような出来事がきっかけで彼らがそのようなことをして自殺に追い込んだのか。
それが二人が疑問に思っている点だ。
「まずは病院に着いたら友梨奈さんを蘇生させることを最優先にしよう」
彼は彼女をお姫様抱っこをしたまま、私立花咲大学付属中等学校から、ジャスパーの仕事場である病院まで彼の能力で移動する。
そこに着いたら至急、友梨奈の蘇生措置を施そうと目論みつつ、ニヤケている彼がいた。
「スピンオフ」の「#19」をベースに改稿。
※ 次回は医療シーン(手術など)が入ります。
苦手な方はご注意くださいませ。
2018/11/04 本投稿
2018/11/08 後書き欄修正
※ Next 2018/11/05 0時頃更新予定。




