#41
彼女らは一日の授業をなんとか終えた。
友梨奈は速やかに音楽室に行く中、柚葉は少し時間を空けてから行こうと思い、近くにいるクラスメイトと談笑をして待っている時、エリカに呼び出された。
「荒川さん!」
「エリカ、どうしたの?」
「これからどこに行くの?」
「部活があるから、音楽室に行くところだけど……」
「もしかして、木野 友梨奈と同じ部活?」
「そうだけど……なんで?」
「荒川さんに最後のお願いがあるの」
「何?」
エリカは彼女に近づき、耳元でこう囁く。
「明日の朝……別に今からでもいいんだけど、部活であの女とよく一緒にいる人に無視したり避けて行動したりするように伝えてほしい」
「…………」
彼女からそのように言われた柚葉は頷いたり答えたりはしなかった。
なぜならば、友梨奈がよく一緒にいる人物は早紀と凪の二人。
彼女らが彼女を避けたりするとなると、居場所がなくなってしまうと判断したからだ。
エリカは柚葉に「できるよね?」と口調を変えずに声のトーンを落とす。
彼女は表情を曇らせつつも「……うん……」と答えた。
「明日の朝、ウチに教えてね!」
「分かった」
「じゃあ、明日ね!」
エリカと入れ替わるようにまひろが心配そうに近づく。
「柚葉、またエリカに何か言われたでしょ?」
「友梨奈の居場所をなくすように言われた」
「マジか!? まぁ、エリカは容赦ないから仕方ないよね……嫌なら無理してやらなくてもいいと思うよ?」
柚葉は彼女にエリカから言われたことを要約して答えた。
まひろは少し驚きながらもすぐに呆れながらいつもの調子に戻る。
「うん。いずれはエリカにやっていないことがバレるから……」
「だよねー。仕方ないよね?」
「確かにそれは言えてる。あっ、急いで音楽室に行かなくちゃ!」
「柚葉は部活か……頑張って!」
「ありがとう。頑張ってくるね!」
柚葉は彼女と別れ、慌てて音楽室に向かった。
*
部活動が終わり、聡は毎日のように校門の前で待っていた友梨奈の姿がなく、違和感と寂しさを覚える。
彼はつい気になってしまい、外から彼女がいた音楽室がある建物を見るが、明かりはすでに消えていた。
「もう家に帰ったのか……」
聡は一人寂しくとぼとぼと歩き始める。
「どうするかと言われてもな……」
その時、彼は友梨奈と別れるかなんとかしてよりを戻すか未だに悩んでいた。
『聡!』と呼んでいる彼女の明るく元気な声が恋しい――。
聡が懐古に浸っているうちに家に着いてしまった。
「ただいま」
「お帰りなさい」
彼は台所で夕食の準備をしている母親の顔を見ずに、階段を上り、自室に行く。
部屋着に着替え、学習机の上にちょこんと置いてある携帯電話を手に取った。
「……」
聡は受信メールの確認してみるが、一通も届いていない。
彼は今までのメールを見ているうちに涙目になっている。
今まで何気なく話したり、メールでやり取りをしたり、二人でどこかに出かけてたりしていた時間が楽しかった。
今はそれらができないという現実――。
「友梨奈に例の件の答えを出さなくちゃな……」
聡は零れ落ちかけた涙をティッシュペーパーで拭き取り、新規メール作成の画面を開く。
彼は右手を振るわせながら、本文を打ち込み、送信先を友梨奈のメールアドレスに合わせて送信。
「……友梨奈……こんな答えしかなくて……ごめんな……」
聡は携帯電話を閉じ、ベッドにうつ伏せになり、落ち着くまで泣いていた。
*
友梨奈が家に着き、濡れてしまった制服を干し終え、携帯電話の電源を入れ、受信メールの確認をする。
「あっ、聡からだ」
受信メールが一件受信され、送り主は聡だった。
その内容は一言で『別れよう』のわずか四文字。
彼女は『こんな私を好きになってくれてありがとう』と返信した。
書き下ろしエピソード。
2018/11/02 本投稿
※ Next 2018/11/03 0時頃更新予定。