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#40

 友梨奈は一限目が始まる前、速やかに濡れた制服から体操着に着替えてきた。

 彼女は周囲の視線と陰口を気にしつつ、一限目の授業を受けている。


「……っつ……」


 二限目の理科の授業が始まり、友梨奈は腹が痛くなる感覚が現れた。

 その痛みは徐々にキリキリと増し、冷や汗が流れてくる。

 慌てて早紀から借りたハンカチで拭き取るが、何度拭いても止まらない。

 彼女は次第に、クラスメイトは助けてくれない、頼ることができるのは自分自身しかいないと思うようになり、授業に集中できなくなりかけていた。


「――――この問題は……どうしたの、木野さん!」


 教科担当の坂野があまりにも友梨奈の顔色が悪くなっていたことに気がついたので、彼女のところへ向かう。


「大丈夫?」

「……大丈夫です……」

「大丈夫って……顔色が悪いよ? 保健室に行く?」


 友梨奈は黙ったまま首を横に振った。

 それには理由がある。

 もし、彼女が保健室に行くのならば、残ったクラスメイトが友梨奈のものをどこかに隠したり、わざと捨てたりなどと()()()()()()()()()()可能性があるからだ。


「うーん……私は保健室に行った方がいいと思うんだけどな?」

「……少し落ち着いてきたので、大丈夫です。ご心配かけてしまってすみませんでした……」


 ざわめく教室内――。

 保健室に行かなかった彼女にエリカは軽く舌打ちをした。



 *



 同じ頃、他のクラスに属している聡も友梨奈と同様に授業を受けているが、なかなか集中できない。

 彼のクラスでは一限目の理科の授業は実験だったため、少し気を紛らわせることができたが、今は国語の授業に切り替わり、自席に着いた途端に今朝のことが呼び起こされる。

 聡の中では彼女から言われた「私は聡と別れたい」という言葉で頭がいっぱいになっているようだ。


「あの時、僕は…………」


 彼は誰にも聞こえないくらいの小声で落ち込んだような口調で呟く。

 あの時は何も答えられず、友梨奈の気持ちを考えることができなかった自分がおり、聡は彼女と別れようか否か悩んでいるようだ。


「――――次、秋桜寺(しゅうおうじ)、ここから読んで? って、訊いてるか?」

「……は、はいっ! 質問を訊いていなかったので……」

「ん? 秋桜寺が授業中にボーっとするとは珍しいな」

「すみません」


 彼は焦る思いで前回の授業の板書から進めていないノートを見ると、黒板にはすでに半分くらい埋まっている。

 あと少し時間が経てば消されてしまうところだが、指されてしまったからには教科書を読まざるを得ない。

 周囲から笑われながらも、聡があとで近くの者からノートを写させてもらおうと諦めかけていた時、後ろから肩をつんつんと突っついてきた。


「秋桜寺くん、ここからだよ」

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」


 彼が突っついてきた方を振り向くと、少女が指名してきたところを指さしてきた。

 聡は立ち上がり、教科書を音読し始める――。


「ここまで。秋桜寺、ありがとうな」


 決められたところまで読み切ったらしい。

 彼は静かに椅子に腰かけ、シャープペンシルを握り、幸いにも消されていない黒板を慌てて板書を取る。


「では、彼が読んでくれたこの場面で重要なところは二つある。どこだか分かるか? あっ、もう時間か……次回はここからだな。それまでに各自で考えておくように!」

「「はい!」」


 教師からの質問が終わったタイミングを見計らっていたかのようにチャイムが校内に鳴り響き、授業が終了した。


 複雑な感情を持ち始めている友梨奈と聡――。

 特に彼の心は大きく揺らいでいるのであった。

書き下ろしエピソード。


2018/11/01 本投稿


※ Next 2018/11/02 0時頃更新予定。

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