#39
友梨奈の同性のクラスメイトがお手洗いから出たあと、凪が「あの子達はなんなの?」とぼそっと言ったと同時に彼女はくしゃみをした。
「友梨奈、大丈夫? そのままだと風邪引いちゃうよ?」
「そうだよ。体操着は持ってる?」
「うん」
「一応、念のために先生に相談した方がいいんじゃないのかな? 友梨奈ちゃんのハンカチが濡れているかもしれないから、ボクのハンカチを貸してあげる」
早紀は友梨奈にハンカチを手渡す。
彼女は受け取ったハンカチで頭や顔についた水滴を拭き取る。
やはり、早紀や凪は友梨奈を心配して彼女の担任の早川に相談することを勧めてきたが、友梨奈は首を横に振った。
「ありがとう。実はそう思っているけど……今日、早川先生は午後は出張だからね……」
「別に今日じゃなくても明日とか、言えばいいじゃん?」
「そうだね。凪と早紀、ありがとう」
彼女は早紀にハンカチを返そうとする。
それに気がついた彼女は「ハンカチはあとで返していいからね」と手を横にひらひらと振りながら言った。
友梨奈はお言葉に甘えてハンカチを借りることにし、それをきれいに畳み、左ポケットにしまい、三人はトイレから出て行く。
その時の彼女の心中に一筋の光が射し込んだと思っていたが、その光がなくなるまでの時間はあっという間に過ぎなかった――――。
*
友梨奈が二人と別れたあと、聡が理科のノートと教科書、筆箱を持って歩いていた。
彼のクラスはこれから理科の授業のため、理科室へ移動しているところである。
聡は幸いにもクラスメイトと一緒ではない。
彼は珍しく一人で移動していたので、聡に言いたいことがある彼女にとっては都合がいい。
「あれ? 友梨奈?」
「……聡……」
「制服や髪が濡れているよ?」
「………………」
彼はずぶ濡れになった友梨奈を見て怪訝そうに問いかけるが、彼女はその問いに対して黙ったまま俯いていた。
「どうした?」
「……同じクラスの女子にやられた……」
聡は友梨奈に再び問いかけてきたため、重い口を開き、素直に答える。
「えっ!?」
「だから、同じクラスの女子にバケツに入った水をかけられたの!」
彼は素っ頓狂な声を出したため、彼女は本当は普通に話したかったが、気がついたら苛々した口調で話していた。
「あっ……さっきはごめんね」
「気にしなくていい。ところで、それは本当か……?」
「……うん……」
「まずは風邪を引かないようにしないとな?」
「一応、体操着があるから、それに着替えるよ」
「……そうか……」
彼女らの間で沈黙が流れ、徐々に穏やかではない雰囲気が漂ってくる。
伝えたいことがあるならば、今しかない。
友梨奈は聡からの答えはどのようなことでもいいと思い、勇気を振り絞って会話を再開した。
「あ、あのね……わ、私は聡と別れたい……」
彼女は彼にそう告げる。
しかし、聡は「なんで?」と答え、首を傾げていた。
「私がこの状況なのを知っているでしょ!? 私達がこのままずっとつき合っていたら、聡までいじめられてしまうかもしれないんだよ!?」
「………………」
友梨奈は勢いのあまり、彼に向かってそう言ってしまう。
二人を見ていた周囲からの冷たい視線とくすくす笑っている声が彼女らの視界と耳に入ってきた。
「荒川や白鳥は?」
「二人とも裏切られた。最悪の場合は凪と早紀からも……」
「いくらなんでも、最悪すぎるだろう……」
「私からはそれだけだから。返事はあとでメールを送って。さようなら」
彼女は彼氏であった聡に冷たい態度で接してしまった。
今の友梨奈にとってはこの状況を考えてみて彼と別れることしかないと判断した模様。
彼女は聡をおいて走って教室に戻り、残された彼はその状況が分からず、その場に佇んでいた。
「【原作版】」の「#14」の中間部、「スピンオフ」の「#17」をベースに改稿。
2018/10/31 本投稿
2018/11/03 後書き欄修正
※ Next 2018/11/01 0時頃更新予定。