#3
友梨奈と聡は自分達が通っている私立花咲大学付属中等学校に到着した。
彼女らが校門をくぐった時にはすでにたくさんの学生達がクラス表付近に集っている。
別のところには二年生が集まっているため、校内が騒がしい状態だ。
「うわー……凄く混んでるな」
「そりゃ、仕方ないよ。各学年二百人以上が一斉にクラス表を見にきてるんだもん」
「そうだよな……。新井達はすでにここに着いて、あの中に紛れてるかな?」
「どうだろう?」
聡が首を無駄に動かしながら凪達を捜し始める。
「あっ、いたいた! 早紀達もクラス表を見始めてるから、私達も見に行ってみよう?」
「本当だ、行こう」
友梨奈と聡が人混みの隙間から早紀と凪の姿を見つけると、彼女らは一組から順番にクラス表を見始めており、彼女らはあとを追うように一組から見ていくことにした。
*
しかし、現実は甘かった。
早紀は三組、凪は二組に名前があり、まだ友梨奈と聡の名前が見つかっていない。
彼女らは四組のクラス表を見始めた。
「おっ、僕は四組だ」
「私の名前はここにはないから、別のクラスだね」
「そうだな。友梨奈の名前が見つかるまでつきあうよ」
聡の名前は四組に書かれていたが、友梨奈の名前は四組にも五組にも書かれていなかったのだ。
「やっと見つかった!」
「友梨奈、お疲れ様」
「なんかみんなクラスがバラバラだね……聡は三年間同じクラスって人いた?」
「僕は二人だけだけどいたよ。友梨奈は?」
「私は残念ながらいないね……ほとんど知らない人と一年の頃以来が数人くらいかも」
「やっぱり、一学年が二百人以上だから仕方ないよな……」
「うん」
彼女はその場で溜め息をつく。
聡はもちろんのこと、早紀達まで別々のクラスとなった今、彼女らに会う顔がなく、肩を落として落ち込んでいる時だった。
「おはよう。木野 友梨奈さんだよね?」
友梨奈は顔をしかめた。
彼女にとってはその声は聞き覚えがあるようなないような曖昧な記憶しかない模様。
「は、はいっ! おはようございます!」
「あはは……」
友梨奈が驚いてしまい、素っ頓狂な声を出すと、彼女の隣にいる聡は噴いて大爆笑をしている。
さらには突然話しかけてきた少女も笑い始めていた。
友梨奈は彼に怒られる覚悟で聡の靴の先を軽く踏む。
「突然話しかけて、おまけに笑っちゃってごめんね。わたしは吹奏楽部でホルンのパートリーダーをやってる荒川 柚葉。今日から同じクラスだからよろしくね」
「荒川さん、こちらこそよろしくね」
「部活でもパートが違ってあまり話したことがないのにも関わらずに、少しわがままを言って申し訳ないけど……わたしのことは「柚葉」って呼んでほしいな。わたしも「友梨奈」って呼ぶから」
「うん。改めてよろしくね、柚葉」
その時、彼女は同じ部活や定期テストの上位者ランキングに載っていたような……と曖昧な記憶から柚葉を思い出すように――。
今の友梨奈にとっては同じクラスと部活に所属している柚葉がいるだけでも心強かった。
「おーい! 友梨奈と秋桜寺!」
「あっ、柚葉ちゃんもいる! おはよう」
凪達が彼女らを見つけて近くに駆けつけ、早紀は柚葉も一緒にいることに気がつき、手を振っている。
「おはよう、早紀」
「みんなは何組だった?」
「秋桜寺から言いなよ。言い出しっぺなんだからさー」
「分かったよ。僕は四組だよ」
「ボクは三組」
「あたし、二組」
「私と柚葉は六組」
言い出しっぺの聡をはじめ、早紀、凪、友梨奈の順で自分のクラスの報告をしていった。
「みんなバラバラだね……わたし、友梨奈と同じクラスになれてよかった」
「荒川は同じクラスに知り合いはいないのか?」
「実はね……わたしも友梨奈と同じく知らない人しかいないんだ」
「そうか……荒川ももしよかったら友梨奈と一緒に顔出しにおいで」
「あ、ありがとう。漢字はすぐに出てくるけど、読み方が分からなくて……」
「僕、変わった名字だから最初は誰も読めないんだよな……秋桜寺と書いて「しゅうおうじ」と読むんだ」
「なるほど……秋桜寺くん、ありがとうね」
柚葉は聡の名字の読み方が分からなかったらしく、本人に直接訊いていた。
一方の凪は「あれ、あたしは何回か秋桜寺って呼んでるけど……」と思い、少し悶絶している。
「じゃあ、またあとで話そうな!」
「「うん!」」
友梨奈は彼女らと過ごす時間がずっと続けばいいなと思っていたが、この面子のほぼ全員が別々のクラスだという現実を受け入れるしかなかったのだ。
今日から新しい教室で新たな生活が始まるという不安と緊張感の他にクラスメイトが知らない人が多く、戸惑いが隠せない彼女。
そのような時にある噂が流れていたのだ。
「三年六組は問題児が多い」
「落ちこぼれクラス」
「すぐに学級崩壊を起こしそう」
などと――――。
「【原作版】」の「#3」をベースに改稿。
2017/08/27 本投稿