#38
朝の学活が終わり、友梨奈は一限目が始まる前にお手洗いに行った。
彼女がそこから出ようとした瞬間、バシャッと音を立て、誰かが事前に溜めておいたであろうバケツに入った水が一気に降ってくる。
「きゃっ! だ、誰!?」
その水によって友梨奈の髪や姉の友梨香から借りてきたブレザーが濡れてしまった。
彼女はすでに誰がそのようなことをやったのかは推測がついている。
おそらく同性のクラスメイトがわざとやったのだろうと――。
「木野さん、制服が濡れてるよ?」
「うわー。こんなところで雨が降ってたんだ」
「狭い空間なのにね」
「ウチらは濡れなくてよかったよね?」
「うん!」
友梨奈が濡れたままの姿でお手洗いから出る。
案の定、彼女らが彼女にしかけた罠だった。
同性のクラスメイトは友梨奈を見て、くすくす笑っている。
その中にエリカの姿があり、手にはバケツを持っていた。
彼女はエリカ達を黙って睨みつける。
「何? 木野さんは被害者ぶってるの?」
「あんたは悲劇のヒロインかよ」
「今回の中間テストでカンニングしたのに?」
「男子からも言ってたけど、カンニングは最低な行為だよー」
「「ねーっ!」」
「………………」
友梨奈は彼女らに「被害者」や「悲劇のヒロイン」と言われ、さらには男子生徒と同じように「カンニングした」を言われたが、その場で言い返すことができなかった。
なぜならば、彼女はこのような状況の自分を休み時間などの空き時間に出入りの激しいお手洗いで他のクラスの人に見られなくないと思っていたから――。
生憎、たまたまお手洗いに入ってきた凪と早紀に見られてしまった。
「……友梨奈……?」
「……友梨奈ちゃん……?」
二人は友梨奈の名前を呼び、全身ずぶ濡れになった彼女と彼女の同性のクラスメイトを交互に見ている。
「……凪、早紀……」
「友梨奈ちゃん、大丈夫?」
「あーあ……ずぶ濡れじゃん」
早紀と凪は友梨奈に気を遣っていたのかは不明なところではあるが、どこか心配しているように感じられた。
その時の彼女にとっては自分の居場所はまだあると察した瞬間である。
「ヤバッ!」
「他のクラスの人に見られた!」
「早く教室に行こっ!」
それを見た彼女の同性のクラスメイトはそそくさとお手洗いから出て行った。
エリカは「木野さんの友達もすべて奪ってやる!」と誰にも聞こえないくらいの小声で言い放ち、足早に教室へ向かう。
その場に残った友梨奈達は彼女を静かに見送った。
「【原作版】」の「#13」の後半部、「スピンオフ」の「#16」の後半部をベースに改稿。
2018/10/30 本投稿
※ Next 2018/10/31 0時頃更新予定。




