#36
翌日――。
友梨奈は友梨香からこっそり借りた制服に袖を通す。
彼女にとっては珍しくゆっくりとした朝の時間が取れたのは部活動の朝練がなかったからだ。
「おはよう」
友梨奈はすでにほとんどのクラスメイトがいる教室にいつもより警戒しながら入る。
柚葉やまひろはその中に紛れて何人かの女子生徒達と楽しそうに談笑をしていた。
「なんか聞こえなかった?」
「気のせいだよね?」
「空耳じゃない?」
「もしかして、幻聴? やだー」
「ついにこのクラスに幽霊が現れたとか?」
「まじやめてー!」
「幽霊が出たら、学校に行けなくなっちゃうから!」
彼女らが一旦、談笑を止め、周囲を見回しながら話している。
友梨奈はそれを見て驚愕の表情浮かべていた。
クラスメイトの女子生徒達に無視され、柚葉やまひろは彼女が学校にきていることすら気がついていない。
いつもならば、クラスメイトは嫌な顔をしないで友梨奈に挨拶をしてくれていたのに対し、本日はそれがなかったのだ。
彼女は朝からショックを受けてしまっている。
「おっ、カンニング女が呑気にやってきたぜ!」
「本当だ!」
「もういい加減にカンニングしたと認めてくれればいいのにな」
「だよなー」
例の調子に乗りやすい男子生徒達も相変わらず、友梨奈に対して「カンニングをした」と言ってきた。
彼女は「だから、私はしていないから!」と彼らに言い返した時――。
「木野さん、もう諦めて認めたら?」
女子生徒の誰かが友梨奈に向かって見放すくらいの冷淡な口調で言い放ってくる。
「えっ!?」
「だから、カンニングしたことを素直に認めたらって言ってるの」
「し、白鳥さん……」
彼女は先ほどの声の主と視線を合わせようと周囲を見回した。
その声の主は友梨奈の正面に立っており、意外にもまひろ。
「……う、嘘……」
一方の柚葉は彼女から少し離れたところで数人の女子生徒とくすくすと笑っていた。
他のクラスメイトもまるで人を嘲笑いするような視線を向けている。
まひろや柚葉はいつものように「あたし達は木野さんの味方だから!」と言ってくれたからこそ、彼女は本日まで頑張ってこられた。
彼女らは友梨奈にとっては大切な友達だと思っていたにも関わらず、あっさりと裏切られてしまった。
そのうち、他のクラスに属している凪や早紀、聡からも裏切られてしまいそうで怖いという恐怖感――。
彼女はこの日を境に大切な友人を失い始めていた。
*
「……まさか……このような形で裏切られるとは……」
ジャスパーはタブレット端末に映し出されている映像をじっと見ている。
第三者にあたるであろう彼から見たこのような光景は酷い印象を持たざるを得なかった。
ジャスパーが恐れていた「人間関係の崩壊」――。
それを友梨奈自身でいくら努力しようとしても、内気な性格を持つ彼女では不可能に近いと思われる。
「これからも人間関係の崩壊が続くのならば、友梨奈さんはどうなってしまうのか……?」
彼は映像を見ながらそっと呟いた。
「【原作版】」の「#13」の前半部と「スピンオフ」の「#15」後半部をベースに改稿。
2018/10/23 本投稿
※ Next 2018/10/30 0時頃更新予定。