#35
「……どうしよう……」
友梨奈は部活動が終わるまでの間、チョークの粉にまみれた制服を着て過ごしていた。
なぜならば、本日は生憎にも、体育の授業がなかったため、仕方なくそのまま過ごすしかなかったからである。
彼女が楽器の後片付けを終え、白くなってしまったブレザーを見ていた。
「まだ楽器倉庫の鍵が開いてたみたいでよかった!」
その時、女子部員の声が友梨奈の耳に入ってくる。
彼女が後ろを振り向くと、早紀が楽器ケースを片手に楽器倉庫に入ってきた。
「あれ? 友梨奈ちゃん、どうしたの?」
「……早紀……?」
「なんかずっと制服を見て気にしてるように見えたからさ」
「バレてた?」
「ボクにはバレバレだよー」
「あ、あははは……そうだよねー」
「何かあったんでしょ? 話してごらんよー」
彼女はおどけたように話しかけつつも友梨奈の様子に気になっている。
一方の彼女は柚葉が近くにいると警戒すると思っていたが、その姿はなかったため、勇気を振り絞って答えた。
「あー……あのね、さっきの休み時間にみんなでテストの順位を見に行ったでしょ?」
「うん」
「教室に戻ったら、ドアのところに黒板消しが仕掛けられてて……」
「それで髪の毛と制服が真っ白になったというわけか……なんかドラマや漫画の定番シーンみたいだねー」
「もう、早紀ったら! 私のことを馬鹿にしてるの!?」
「ボクは友梨奈ちゃんのことを馬鹿にしてないよー」
「……ならいいけど……」
彼女らが話している時にあとから入ってきた柚葉が友梨奈に非難の目を向けている。
その時の彼女自身は教室でも音楽室でも同じようなことをされるのではないかと警戒しているようだ。
「そ、それでは帰りますか?」
「そうだね」
「「お疲れ様でした!」」
「お疲れ様」
二人は速やかに楽器倉庫から出て行き、音楽室で帰り支度をしてから各々の家路についた。
*
友梨奈は早紀と別れ、近くにある公園の風に揺られているブランコに腰をかける。
「懐かしいなぁ……よく友梨香とブランコで遊んでたなぁ……」
それは彼女が幼い頃、双子の姉である友梨香と遊んでいた。
今でも同じ場所にブランコがあることに懐かしさを感じている模様。
「明日からどうしよう……制服をクリーニングに出したとしても、戻ってくるのに時間がかかるしなぁ……友梨香が着てたものを借りようかな……」
友梨奈しかいない公園――。
その場所は今の彼女にとっては心が落ち着く場所となっているようだ。
「……なんで……なんで、いつも私だけなの……?」
友梨奈の目からは今まで堪えてきた感情が涙となる。
ポロポロと零れ落ちた涙は地面を濡らしていく――。
折れかけていた彼女の心。
硝子のような心に罅が入り、限界を迎える。
破片を作り、壊れてゆく日は決して遠くはないのかもしれない――。
「スピンオフ」の「#14」をベースに改稿。
2018/10/23 本投稿
※ Next 2018/10/23 19時頃更新予定。




