#34
エリカが先ほど言ったことに対して凍りつく彼女。
彼女はまひろの首筋に両手を巻きつけ、徐々に締めつけようとしている。
「…………っつ…………」
「まひろには話したよね? 今から二ヶ月ほど前のことを」
「……うん……知ってるよ……」
「知ってるなら、最後まで協力するのが筋じゃない? それとも、木野 友梨奈と同様の扱いの方がいいの?」
「………………」
エリカは悪い笑みを浮かべながら彼女に問いかけた。
まひろは彼女が言った「木野 友梨奈」という言葉にほんの一瞬だけ反応するが、意識が混濁しかけている。
「一つ言っておくけど、まひろの意見に賛成した人もみーんな同罪だから。ウチに逆らおうとした人はみーんな敵に回すから! 分かった?」
エリカは教室内を見回し、彼らの意見に賛同した者達に鋭い視線を送った。
空気が凍りつく教室でまひろは小声で「……エリカ……はな……して……」と辛そうに呟く。
「ごめんねー。まひろがウチに逆らわなければこんなことにならなかったのにねー」
「……げほっ……けほっ……」
「大丈夫? 一旦、座ろう?」
彼女の首から両手を離すエリカ。
まひろは深呼吸をしようとするが、咽せてしまい、柚葉に支えられながら椅子に腰かけた。
「ウチは木野 友梨奈がどうなってもいい! みんなはウチにつき合ってもらえばそれでいいんだからね!」
「あーもう分かったから、俺らはあんたにつき合えばいいんだろ?」
「逆らうと白鳥さんみたいなことをされるんでしょ?」
「ちっ……仕方ないなぁ」
「「拒否権」というやつはねぇんかよ……」
「その通り!」
「……だよなー……」
渋々とエリカの言うことに従おうとする生徒達。
彼女には「拒否権」という選択肢は考えていないないため、遠慮容赦なく、行動するのだ。
「さて、今から何をやるか話し合おう!」
「よっ、待ってました!」
「ようやくだな」
「些細なことでもいいからね!」
エリカはチョークを右手に持ち、調子に乗りやすいクラスメイトを中心に黒板に意見を書いていく――。
「――――うん。このくらいでいいかな」
「もう十分だろう?」
「いくつか絞る?」
彼女らの行為に反対の生徒達は適当に話を聞いていたり、近くの者としゃべっていたりしていたため、それらのほとんどは調子に乗りやすい男子生徒達からしか出てこなかった。
「そうだなぁ……俺らはカンニングの件で、他は無視とかいないふりとかしてればいいんじゃね?」
「女子だったらお手洗いの個室で水をぶちまけるとかさ!」
「お前ら、さすがだな!」
「あとは部活のことか……俺、木野 友梨奈が部活やってるかは知らないから同じ部員の奴に任せる」
「テストの順位は知ってるのに意外だな」
「俺にも知らないことはあるのさー」
「じゃあ、決定ね! 明日はいつもより早めに集合で!」
「了解」
「はいはい」
「ようやく終わったよ」
今回の話し合いはエリカ達が中心となって動き、決定まで漕ぎつけたが、その中で柚葉が複雑な表情をしている。
なぜならば、友梨奈と同じ部活に属しているのは彼女だからであるから。
「友梨奈、ごめんね……わたし、どうすればいいんだろう……」
少しずつ家路につく者や部活動の部室に向かうクラスメイトに紛れて柚葉は悩みながら教室から音楽室へ歩を進めた。
「明日からあの女がどのようにして人生のどん底を味わってくれるか愉しみだわ……!」
エリカは悪い顔をしながら黒板をきれいに消し、きちんと戸締まりをしてから帰路に着く。
同じ頃、柚葉より早く音楽室に行っていた友梨奈は彼女が今まで教室で何をしていたのかは知る由もなかった。
書き下ろしエピソード。
2018/10/16 本投稿
※ Next 2018/10/23 0時頃更新予定。




