#32
「授業を始めるから席に着けー!」
「「はーい!」」
友梨奈のクラスの英語担当である吉原が慌ただしく教室に駆けつけた。
生徒達は返事をし、各々の自席に戻っている。
「今日は遅くなってすまないな。……って、おまえらはいつも他のクラスよりうるさいぞ!」
「すみませーん」
「次からは気をつけまーす!」
「おまえら、反省してないだろう……ん?」
彼は授業開始が遅れたことに謝罪するが、待機しているはずの彼らは適当に返事をし、騒がしくしていたことは反省していないように感じ取られた。
吉原が教壇に立ち、席に着かせた時から一つだけぽっかりと空いた席がある。
その席は友梨奈の席だった。
「木野。髪と制服が白くなってるじゃないか? 何かあったのか?」
彼は自席に着かず、頭と制服がチョークの粉によって白くなり、立ち尽くしている彼女に訝しげに問いかける。
友梨奈は俯きながら「……なんでもありません……」と答えた。
「そ、そうか。何かあったら、早川先生に相談しろよ?」
「……はい……」
彼女がゆっくりと自席に着こうとした途端、通路に出ていた誰かの脚に引っかかり躓く。
クラスメイトは友梨奈を見て、なぜか一斉に笑い始めた。
「木野さん、ごめんねー。うち、脚が長くってー」
「ちゃんと下を見て歩こうねー」
「あいつ、どんだけ視力が悪いんだし……」
「あの女はクズ女だから仕方ねぇんだよ!」
クラスメイトの女子生徒がわざと彼女に躓かせようと仕掛け、周囲からひそひそ声が耳に入ってくる。
吉原は「おまえら、ふざけるのは止めなさい!」と彼らに注意をするが、残念ながら誰も聞く耳を持たず――。
「ごめん。気をつけるね」
友梨奈は脚を出してきた女子生徒に謝り、再び自席へ向かって歩き始める。
彼女らは彼女を見て、ずっとくすくす笑っていた。
その一方で柚葉とまひろは心配そうに友梨奈のことを心配そうに見ているように感じられる。
しかし、実際にエリカ達はもちろんのこと、二人が何を考えているのか彼女には分からない。
友梨奈の心の中ではこう思っていた。
私だけなぜ標的にするのか?
私をいじめてそんなに愉しいのか? と――。
彼女にとってはこのような行為をされるのはこりごりで、考えているだけでも心が折れかける寸前まできている。
友梨奈は生きることに恐怖感を抱き、それに対して罪や罰だと感じ始めていた。
*
「まさか、このようなことになるとは……」
ジャスパーは友梨奈のことを「監視」という名の「見守り」をしてきたが、ここまでエスカレートするとは思わなかった。
これには本当に笑えない事態であることが事実である。
彼女は彼の手の施しようがない状況でタブレット端末を眺めながら頭を抱え込みながら悩み始めていた。
「【原作版】」の「#12」の後半部と「スピンオフ」の「#13」後半部をベースに改稿。
2018/10/09 本投稿
2018/10/15 エピソードの追記
※ Next 2018/10/16 0時頃更新予定。




