#28
友梨奈はテスト中にカンニングはしておらず、自分の実力だけで解いたにも関わらずに、彼女のカンニング疑惑はあっという間に学年中に広まってしまった。
徐々に険しくなっていく同級生の目。
彼らはひそひそと話をしながら彼女を避けるように各自の教室へ戻っていく――。
あまりにも周囲の厳しい視線を向けられ、恐怖心に駆られた友梨奈は少し俯いていた。
「どうせ、聡や早紀達も他の人と同じように、私がカンニングしたと思ってる……みんな、私とは上辺だけの友達だもんね。きっと、そうだよね……」
彼女は視線を床に落としたまま、誰にも聞こえないような微かな声でそう呟く。
友梨奈は柚葉達も彼らと同様にそそくさと教室に戻っているのだろうと思っていた。
「友梨奈」
「木野さん」
いつも聞き慣れた声が彼女の耳に届く。
柚葉とまひろが友梨奈を呼ぶ傍ら、早紀は「友梨奈ちゃん、それは違うよ!」と叫ぶような声で言った。
「えっ!?」
彼女は彼女らの声に驚き、視線を戻す。
早紀や柚葉達は他の同級生とは異なり、教室に戻らずに廊下に残っていた。
「僕は友梨奈がカンニングをしてないと信じているから、さっきみたいなことを言うのは止めろ!」
「あたしも」
「わたし達は友梨奈の味方だからね」
「上辺だけの友達じゃないよ。あたし達になんでも話してもいいんだからね?」
「ボクも秋桜寺くんやみんなと同じだよ。だから……」
聡、凪、柚葉、まひろ、早紀の順に友梨奈に言ってきた。
彼女はなぜ早紀からではないのかが少し気になっていたが、今はそれどころではない。
なぜならば、彼女は友梨奈の胸の中で泣いていたからだ。
「早紀、もう泣かないで。私の独り言を全部聞かれちゃった」
彼女は早紀の頭を優しく撫でながら、泣き止むのを待っている。
「あたしは聞こえないふりなんてできないよ」
「わたしも無理だよ」
「僕も」
「あたしもだよ。友梨奈が悲しいことを言い出すと心配になっちゃうもん!」
「みんな、ごめんなさい。そして、ありがとう」
友梨奈が彼女らに礼を言うと同時にチャイムが鳴り始めていた。
「チャイムが鳴ったから、教室に戻らないとね」
「そうだな……工藤はそろそろ大丈夫か? 落ち着いたか?」
「……うん……」
「じゃあ、荒川と白鳥は友梨奈をよろしくな。そこは同じクラスの君達にしかできないことだからよろしく頼む」
「うん、分かった」
「了解。木野さん、一緒に教室に戻ろう」
「うん…………」
五人はそれぞれの教室へ散っていく――。
彼女は周囲からの冷たい視線を浴びながら、同じクラスの属している柚葉とまひろとともに教室へ戻った。
*
今まで同じような映像を何度も見ていたジャスパーはこの場面を見ていなかった。
「そういえば、それ以降の映像を見ていなかったな……」
彼は速やかにタブレット端末の映像を切り替える。
その映像を改めて見たジャスパーは「なんて素敵な友人なのだろう」と感じ、その存在は大きいのではないかと感じていた。
「友梨奈さん、あなたは今のところは恵まれている方ですよ。何人かの友人がいること、些細なことでもなんでも話せるということはいいことですから」
友梨奈の友達の人数は少なくとも、本音を話したりすることは悪くはない。
しかし、柚葉達は彼女に対して気を遣っているのかどうかについては彼には判断がつきにくいところである。
なぜならば、心理的なことに関してはなんともいえないものだから――。
「【原作版】」の「#12」の前半部と「スピンオフ」の「#12」をベースに改稿。
2018/01/09 本投稿及び後書き欄修正




