#19
友梨奈は学校から自宅に帰ったあと、手洗いうがいをしっかり行い、たまたま台所に置いてあった一口サイズのチョコレートを手に自室に籠もり、それを摘まみながら、勉学に励んでいた。
それから約一時間三十分くらい過ぎた時に母親から「友梨奈、ご飯よ!」と彼女を呼び出す声が耳に入ってくる。
友梨奈は「はーい」と返事をしたが、もうそんな時間と思いながら時計を見ると、十八時十分になっていた。
彼女は一旦教科書とルーズリーフバインダーを閉じ、一階にあるリビングへ降りていった。
「友梨奈、テスト勉強は順調か?」
晩酌を始めた彼女の父親が友梨奈に問いかける。
彼女はマグカップにペットボトルの烏龍茶を注ぎながら、「うーん……」と答えた。
「まぁまぁといった感じかなぁ……(本当は順調でもないけど……)」
「三年生は難しい内容が多いからな」
「そうだね。特に数学が一番難しいと感じてる」
「友梨奈はいつもコツコツと頑張っているから、おそらく結果がついてくると思うぞ」
「うん。パパ、頑張るよ!(少しカタコトになっちゃったけどいいや)」
「その意気だ!」
母親は父親と友梨奈の会話を聞きながら、微笑ましそうな表情を浮かべつつ、ご飯をよそっていた。
何も変わらないごく普通の日常生活ではあるものの、今の彼女にとっては精神的に負担となってきている。
それは友梨奈が学校でいじめを受けている「悲劇のヒロイン」を演じつつ、両親や友人の前では「いい子」を演じなければならないというところ。
その二つが特に負担となっているのだ。
友梨奈はこの段階から両親や担任である早川に相談するかどうか悩ませているが――。
彼女は「まだ私は大丈夫!」と自分に言い聞かせながら、いつも通りに学校へ向かう。
しかし、彼女が「まだ私は大丈夫!」と言えなくなる日がくるのは時間の問題となりそうだ――――。
書き下ろしエピソード。
2017/11/21 本投稿
※ Next 2017/11/24 6時頃予約更新にて更新予定。