#18
「うーん……」
ジャスパーは首を傾げながら午前の診察を終え、机の引き出しからタブレット端末をとり出し、電源を入れた。
「先ほどの映像は授業中だったということは……その前の場面は僕の見落としということなのか……?」
彼は映像を昨夜のものに巻き戻す。
タブレット端末に映し出されていたのは友梨奈の自宅の自室らしき場所で中間テストの勉強をしている彼女の姿があった。
「なるほど……定期テスト前だからか……」
必死にシャープペンシルを走らせている友梨奈を見てジャスパーは納得する。
時計の針が十一時を回り、彼女は翌日の用意をし、寝床についた。
そして、先ほどの数学の授業の映像につながったことにより、彼の見落としだと判明したのであった。
*
試験一週間前――。
その期間に入ると朝練や放課後の部活動は一旦活動停止となる。
友梨奈はその時間を使用して、職員室に足を運んでいた。
なぜならば、授業に集中できず、分からないところが出てきたからである。
「失礼します」
「木野、珍しいな。どうした?」
「あの、今日の授業で分からないところがありまして……」
「どこ?」
「ここの部分です」
彼女は男性教諭にノートと教科書を広げ、その部分を指さした。
彼はどれどれと友梨奈のノートを覗き込む。
「ああ……そこは難しいところだから、また次回の授業でやろうと思っていたところだ」
「そうなのですか?」
「そうだけど……木野のクラスはおそらく分からない者の方が多いと思うからな。君は自分から「分からない」と言って訊きにきてくれたから、先生は嬉しいよ」
「本当ですか?」
「うん、とても。この問題はこうやって……」
男性教諭は失敗したコピー用紙の裏紙を使用し、彼女の分からないところの問題を分かりやすく解説していく。
友梨奈は彼に教わりながらシャープペンシルを動かし始めた。
「あっ、なるほど!」
「分かったか?」
「はい。ある程度ですが……」
「最初はある程度でいいんだよ。少しずつできるようになればいいんだから」
「先生、お忙しい中ありがとうございました」
「またいつでも質問でも相談でもなんでもいいから気軽にこいよ」
「はい。ありがとうございます。失礼しました!」
友梨奈は職員室から教室へ戻り、通学鞄に使った教科書とノート、筆記用具を手早くしまう。
最後に忘れ物がないか確認し、彼女は昇降口で靴を履き替え、速やかに帰路についた。
書き下ろしエピソード。
2017/11/21 本投稿
※ Next 2017/11/21 6時頃予約更新にて更新予定。