#17
友梨奈は後ろの方から消しゴムを小さくちぎられたものを毎日のように投げつけられていた。
ジャスパーが監視カメラを設置したあとはすでに映像として残されているが、実際にそのような行為はいつから行われているのか分からない。
そのため、彼は考えている分だけ時間が無駄だと判断し、あえて気にしないことにした。
現在は数学の授業が行われており、生徒達は問題を解いている。
この映像は事前に録画したものではなく、リアルタイムで撮られているものだ。
「……はい。この問題を解ける者……」
担当の男性教諭が生徒達の様子を教壇から見下ろしている。
そして、その教諭は何かがふわふわと動いているように見えた。
「そこ、何回言ったら気が済むんだ! 消しゴムを投げつけるのを止めろ!」
「そうだよ! それだけで木野さんはもちろん、周りに迷惑をかけてるんだからな!」
男性教師や勇人が友梨奈の後ろを指を指し、強く注意をしたが、消しゴムを投げつけることを止めない。
よって、消しゴムを小さくちぎられたものを投げつけている張本人達は彼女や教師からの注意に対して、聞く耳を持たず、その場しのぎにしているのだ。
「彼らは友梨奈さんがどのような気持ちで学校に通っているのか分かっていない……」
ジャスパーはタブレット端末に映し出されている映像に密かに察していた。
友梨奈は今も我慢していると思われ、次第に辛くなってきているはずだと――――。
彼は彼女の表情は次第に明るさをなくしているように感じられたのだ。
「学ばない者は本当に学ばないな」
ジャスパーは画面越しに映っている友梨奈のクラスメイトの一部の生徒達に軽く悪態をつきながら毒を吐く。
「友梨奈さんは友人や家族と一緒にいる時は気を遣っている。えーっと……クラスメイトと過ごす時間が多い教室では……」
彼は左手にペンを持ち、彼女のストレスを感じている場所や表情などで大まかにグラフ化しつつメモしていく。
そのグラフの中で一気に跳ね上がった場所と時間が明らかになった。
「それにしても……教室で一気に跳ね上がるとは……彼女はおそらく精神的に限界が近づいているようだな……」
ジャスパーは一旦、ペンを机の上に置き、壁時計を見たら診察時間が始まる五分前を指している。
「録画は電源を消していても常に回っているから、続きは仕事が落ち着いたら、じっくり拝見させていただこう」
彼は先ほど書いたメモと電源が消されたタブレット端末を引き出しにしまい、午前の診察に入った。
書き下ろしエピソード。
2017/11/14 本投稿