#16
友梨奈が例の診察室らしきところからいなくなったあと――。
「…………(彼女の表情は忘れられないな……)」
彼女がくる前からそこにいたジャスパーは友梨奈の表情を忘れられなかった。
その時の彼女の表情は今まで泣いていたせいか、どこか悲しそうで誰かに縋りつきたいような表情をしていると推測。
しかし、友梨奈がきた段階では電気はついておらず、タブレット端末の明かりだけだった。
彼が診察室の電気をつけるべく、席を離れた時に彼女と視線を合わせられたのではないかと思われる。
「友梨奈さんの具体的な悩みが訊きたかったのになぁ……」
ジャスパーは友梨奈が悩んでいることにはすでに察していた。
彼は彼女に悩みがあるかどうか訊いてみたが、「なんでもない」と答えていたことを思い出す。
友梨奈の胸中では「誰かに話したかった」、「誰かに助けを求めたかった」という思いや感情があったのではないかと――――。
「彼女はさぞかし辛かっただろうな……でも、学校の先生や保護者の方に相談できない内容ではないだろうか? それが不可ならば、僕に相談すればよかったはずなのに……」
本来ならば、彼女の口からジャスパーに直接伝えてほしかった本当の思い。
たとえ、友梨奈がそう思ったとしても、なかなか相談できないということは事実であり、それが現実的なのではないかと彼は思った。
人には「誰でも普通に話せる内容」と「一部を除く人物以外に話せる内容」、「誰にも話せない内容」が存在する。
それは「周囲に知られたくない」、「秘密にしておきたい」などという感情があるのだから――。
ジャスパーがぼんやりとそのようなことを考えている間、タブレット端末に映し出されている映像は速やかに流れていく。
「友梨奈さんは無事に着いたようだ……」
彼はタブレット端末に視線を向けると、どこかに向かう階段の踊り場に彼女がいた。
そして、数分くらい経ったあと、何人かの友人が駆けつけてきた模様。
「おや、彼氏?」
ジャスパーが見たのは一人の男子生徒。
その男子生徒はたまに映像に登場している場面が何回かあるため、おそらく彼氏なのではないかと思われる。
「今時は普通に彼氏や彼女がいても可笑しくないからな……」
彼はタブレット端末を見ながら苦笑を浮かべるのであった。
「スピンオフ」の「#7」の前半部と「#8」の後半部をベースに改稿。
2017/11/07 本投稿