#15
聡や早紀達が手分けして友梨奈を探し始めた。
先ほど柚葉とまひろが探した場所はもちろんのこと、彼女がよく行きそうなところを中心に校内を探し回る。
同じ頃、友梨奈は「あれ?」と言いながら、薄暗い屋上に向かう踊り場でぼんやりと突っ立っていた。
「私、どうやってここに戻ってきたんだろう?」
彼女は記憶を辿ってみる。
教室を勢いよく飛び出し、謎の部屋でジャスパーと会って……。
その部屋から出たところまでは覚えているが、どのようにして彼の部屋からここに戻ってきたのかは全く分からなかった。
「無事に学校に戻ることができたからよしとしよう!」
たったそれだけで満足している友梨奈。
その時、彼女の耳からドタドタと階段を駆け上る音が徐々に近づいてきた。
「「友梨奈!」」
「木野さん!」
「友梨奈ちゃん!」
友梨奈の視線の先には、柚葉達はもちろんのこと、凪や早紀、聡の姿があった。
「友梨奈ー。あたしすっごく心配したよー」
「ボクも!」
「僕は荒川達が慌ただしく通り過ぎたところを見て、新井と工藤を呼んだんだ」
彼女のクラスメイトである柚葉とまひろはもちろんのこと、他のクラスに属している聡や早紀、凪の三人にも迷惑をかけてしまったと思うと申し訳なく感じられる。
まひろが一瞬、友梨奈の方を見て、「木野さん、ごめんね。あたし……」と言った段階ですぐに俯いてしまった。
「いいよ。私がみんなに言わなかったのが悪いんだから。こちらこそごめんね」
彼女は彼らに頭を下げて謝る。
「友梨奈は言いたいことをストレートに言わないから駄目なんだよ」
「それは言えてる。確かに友梨奈は常に周りを気にしすぎて、自然といい子を演じちゃうところもあるからな」
「みんな、友梨奈ちゃんの性格を理解してくれているんだよ? だから、頭を上げなよ」
「……うん……」
友梨奈はゆっくりと頭を上げると同時にふとこう思った。
聡や凪は彼女の性格をすでに見破られているのかもしれないと――。
「あたしは木野さんと同じクラスになったのははじめてだし、こう見えて繊細なところがあるしね」
「白鳥さんの意外とクラスメイト思いなところがあるからね」
「そ、それ、ここで言っちゃう!?」
「うん、言っちゃう。ここには私達以外に誰もいないし」
「もう、木野さんったら……」
「友梨奈と白鳥、顔が赤いぞ!」
「「えっ!? 嘘!?」」
「本当だぞ!」
友梨奈とまひろが顔を赤くしながら笑いあっている横で聡が彼女らに軽口を叩いた。
「友梨奈。これからはあたし達を頼ってもいいんだよ?」
「友梨奈ちゃんが困ったときはボク達が相談にのるしね」
「あたしも木野さんとのつき合いはまだまだ浅いけど、困った時はお互い様だよね?」
「わたしも」
「僕も」
凪が彼女の目をよく見て話す。
それに続くかのように早紀、まひろ、柚葉、聡の順に友梨奈に向けてそれぞれの思いを口にした。
「……ありがとう……」
彼女は彼らの顔を見回し、笑顔で応えた。
その時、友梨奈の心中では「私は友達に恵まれているのではないか」と思うと、少しだけ気が楽になる。
それと同時に校内にチャイムが鳴り響いた。
「チャイムが鳴っちゃったね」
「そうだねー」
「急いで教室に戻らなきゃね」
「授業は嫌だけど……」
「だよねー」
彼女らは授業に対しては嫌々ではあるが、足早にそれぞれの教室に戻る。
中等部三年生に進級してからはじめての中間テストが徐々に近づき始めており、彼女はこの先、新たな闇の中に入るとは知る由もなかった――。
「【原作版】」の「#10」をベースに改稿。
2017/10/31 本投稿