#12
「なんてことだ……」
男性はその場面を見た印象を口にし、タブレット端末から視線を逸らした。
彼がこうしている間も場面はどんどん切り替わっていく――。
再び視線を画面に向けると、机の中のゴミや椅子の上の画鋲を片付けている女子生徒達が映し出されていた。
しかし、そのような状況の中で一部のクラスメイトは「自分には関係ない」と思い、化粧をしたり、会話をしたりしている。
「これではまるで、「学級崩壊」ではないか……いや、それを通り越して「いじめ」の領域では……」
先ほどの場面を男性はこう分析をしていた矢先――。
「……ここはどこ……?」
彼の部屋に突然見知らぬ女子生徒が泣きながら姿を現した。
ここには柚葉やまひろの姿はなく、学校関係者の声はもちろんのこと、姿はどこにも見当たらない。
その時、彼女は「まさか、図書館みたいな空間の異世界に飛ばされた!?」と思い、不安そうな表情を浮かべる。
男性はタブレット端末の画面を明るくしたまま、薄暗いその空間内を見回すと友梨奈の姿を見つけた。
「お嬢さん、何かお悩みですか?」
彼は回転椅子に腰かけたまま湯気立つマグカップを片手に彼女に向き合うように問いかける。
友梨奈は「お、お嬢さん!?」と驚いてしまい、周囲を見回したが、彼女以外の人物はない。
「ええ。あなたのことですよ? 部屋の電気がついていませんでしたのでつけさせていただきますね」
男性は気にしてもあなたしかいないのだから意味がないと思い、微笑みながら答える。
彼は回転椅子から立ち上がり、部屋の電気をつけた。
「は、はい……」
「あなたの顔がようやく見ることができました」
「それはどうも」
彼女は彼に恐怖心を覚える。
友梨奈から見たその男性の印象、銀髪隻眼の彼は美形でかっこいいが、本当の自分を晒さない仮面をつけているからという理由があるからだ。
「折角なので、何か飲み物でも召し上がっていきますか?」
「は、はい」
彼は電子ケトルに入っているお湯の確認をしている。
その時、男性は彼女の担当医にしようと目論み始めていた。
「おや? お湯が切れてしまいましたので、沸かしてきますね。こちらの椅子に腰を下ろしてください」
「お、お言葉に甘えて……し、失礼します」
「飲み物は何を召し上がりますか?」
「ココアでお願いします」
「畏まりました。少しお待ちくださいね」
友梨奈は彼が用意した椅子に腰かける。
一方の男性は蛇口を捻り、電気ケトルに水道水を注ぎ、電源を入れ、椅子に近づいた。
「あなたのお名前は?」
「まだ名前を言ってませんでしたよね。は、はじめまして。私は木野 友梨奈です」
「木野 友梨奈さんですね。改めまして、はじめまして。僕はあなたの担当医を務めさせていただくことになりましたジャスパーと申します。よろしくお願い致します」
「よ、よろしくお願いします」
「話している間にお湯が沸いてしまったので、作ってきますね」
「あっ、はい」
ジャスパーと呼ばれた男性は電子ケトルのお湯が沸いたことに気づき、ココアとコーヒーを入れる。
「友梨奈さん、お待たせしました。毒は入っていませんので、安心してお飲みくださいね」
「ありがとうございます。いただきます」
「ココアを飲みながらで構いません。一問だけ質問してもよろしいですか?」
彼が彼女に問いかける。
友梨奈はなんだろうと思い、首を傾げながら、ジャスパーの質問を聞いていた。
「では、唐突ではありますが、再度訊きます。あなたは悩んでいることはありませんか?」
彼は唐突だったが、彼女の悩みとかを話してほしいという思いで訊いてみた。
しかし、友梨奈はあまりにもせよ唐突すぎたため、口からココアを吹き出し、彼の白衣にかかってしまった。
「すみません! コレ、使ってください!」
「ありがとうございます」
彼女は慌てて制服のポケットからティッシュをジャスパーに手渡す。
彼は速やかにシンクへ向かい、シミをある程度落とし、ティッシュで乾かした。
「先ほどの答えですが、悩んでいることはありません」
「本当ですか? あなたはこちらにきた時は涙が零れていましたが?」
「本当です! ちょっとだけ、目にゴミが入っただけですから!」
「そうでしたか……また相談したいことがございましたら、いつでもこちらに脚を運んでくださいね」
「はい、ありがとうございます。ココア、美味しかったです。ごちそうさまでした」
「いいえ。またいつでもどうぞ」
友梨奈はジャスパーのいる部屋を出たが、一つ疑問点が沸いてきた。
私はおかしなところに出ずに、きちんと学校に着けるのだろうかと――――。
「【原作版】」の「#9」と「スピンオフ」の「#6」をベースに改稿。
2017/10/03 本投稿




