#10
あれから数十分が過ぎた頃、音楽室の時計は七時五十分を回っていた。
「そろそろ授業が始まっちゃうから、片付けに入ってー!」
「「はい!」」
部員達は速やかに楽器を片付け、各々の教室へ向かう。
その時、友梨奈は不安を覚えた。
彼女が教室に何事も起きていないことを願いつつ、柚葉と一緒にそこに向かって歩を進める。
「あれ? まひろだ」
「本当だ」
彼女はまひろが廊下にいることに気がついた。
彼女は学校の制服であるブレザーのボタンを開け、Yシャツの襟を外に出し、ネクタイは緩く閉めている。
また、下着がすぐに見えそうなくらいの短いスカートを着用しており、いつもエリカと一緒に授業中に化粧をしたり、ファッション雑誌を読んだりしているため、先生からよく注意されていることから、友梨奈はまひろの名前を覚えてしまったのだ。
「……どうしよう……教室に入りづらいよ……」
彼女は廊下から教室の扉についているガラス窓から中を覗き、見ていられないと感じていたのかは分からないが、首を何度も横に振っていた。
まひろは通学鞄を持っていたため、先ほどそこに到着し、教室に入ることを躊躇したのかもしれない。
「おはよう!」
「白鳥さん、おはよう」
「あっ、荒川さんと木野さん、おはよ……」
二人は彼女に近づき挨拶を交わしたが、まひろはどこかぎこちない様子だ。
「さっき、白鳥さんは首を横に振ってたけど、どうかしたの?」
「木野さん、教室の中は大変なことになってるよ?」
友梨奈は彼女に問いかけたが、まひろは彼女と視線を合わせ、緊張感のある口調で答え、こう続ける。
「あたしはさっき、ここに着いたからよく分からないけど、とにかく、ヤバい状態だよ?」
「えっ!?」
彼女が話していた「ヤバい状態」というものがどのような状態か分からなかった友梨奈は不安感に襲われ、脚から徐々に全身に震えが生じ始めた。
「脚、震えてるけど、大丈夫?」
「う、うん……」
「友梨奈、わたしも一緒だから大丈夫だよ」
「ほら、荒川さんもそう言ってくれてるから、一緒に教室に行こう? ね?」
「うん。二人ともありがとう」
外見上は派手なまひろは友梨奈を教室に入ろうと促してくれている。
彼女はまひろは意外と繊細な面があるのかもしれないと思い始めていた。
人は見かけによらないというのはこのことなのかもしれないと――――。
彼女らの優しさに支えられ、友梨奈は三人で勇気を振り絞って教室に入った。
しかし、彼女は自分の席を見て表情を曇らせた。
「【原作版】」の「#8」の前半部をベースに改稿。
2017/09/19 本投稿
※ Next 2017/09/26 0時頃更新予定。