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09

挿絵(By みてみん)


カナの立ち絵です。

カナさんのおかげで体調がよくなった私は教室に戻った。

もちろん授業中。

扉を開けた瞬間、みんながこちらを見たのが恥ずかしかった。

カナさんは、私が具合が良くなったのが分かると、どこかに行ってしまった。

お礼を言う暇もなかった。

なんでだろうって思ったけど、たぶん目立つのが嫌だったんだろうなって気がついた。


「具合が悪くてトイレに行ってました」


私は微妙に嘘をつく。

でももちろんそんな細かい嘘は先生には分からない。


「具合悪そうだったって聞いてるわ。大丈夫なの?」


「はい。だいぶ良くなりました」


「もしまた具合が悪くなったら保健室に行くといいわよ」


「ありがとうございます」


私は言いながら自分の席へ向かう。

私はぽっかりと空いた席を見る。

そこはカナさんの場所。


「カナさんは?」


先生が私に言った。

その声は特に責めるとかそういう雰囲気はなかった。


「私を看病してくれた後に、どこかに行きました」


「そうなんだね」


ちょっと困ったような先生の笑顔。


「うーん、欠席は欠席だけど、事情があるって伝えておくわね。褒められるのとか苦手そうだし」


先生がそう言ってくれて私はほっとした。

私のせいでカナさんが怒られるとかなったら嫌だったから。

そしてそのまま私は普通に授業を受けた。

体調もなんの問題もない。

授業の終わりにチャイムが鳴ったけれども、過呼吸になったりはしなかった。


「本当に大丈夫?」


授業が終わってすぐ。

飛ぶようにナツキがやってきた。

その顔は不安そうな感じが全面に出たもの。

なんだか珍しい表情に思えたし、その表情をさせたのが私だと思うと少し申し訳ない気分になった。


「うん。トイレで休んだらだいぶ良くなったから」


「そんなに悪かったなら言ってくれればよかったのに」


ちょっと不満そうな口調。


「心配かけたくなかったからね」


私は嘘をついた。

ナツミは地球人だから信用できない。

なんて言えるはずがない。


「余計心配になるんだからね。ナツミって全部1人でどうにかしそうに見えるし」


「えっ……」


内心、びくっとした。


「そっ、そう見えるかな?」


「うん。人に相談するのとか苦手そう」


「それは……そうかも……」


そもそも誰かに何かを相談するという経験が、私にはまるでなかった。

相談するってことは、弱みを見せるってことだから。

もし正体がばれた時に弱みを握られていたら、すごく困るだろうって思う。


「そこがいいところかもしれなけどね。でももっと人に頼ってもいいと思うよ」


なんだか珍しい感じに思えた。

ふだんはぱっぱらぱーって感じに見えるナツミがすごく真面目だ。

多分、部活中はこんなふうなんだろうなって思える。


「うん。努力する」


だから私はそう言った。

実際にするのは難しいかもしれない。

でも目の前のナツミには心配かけたくないって思った。


「人に頼る努力をするっていうのも変な話だけどね」


私のその言葉でようやく


「それもそうだねっ!」


ナツミは笑顔を見せてくれた。

やっぱりナツミは笑顔じゃないと変な感じがする。

ナツミの笑顔はとても明るくて、可愛い。

ナツミが地球人じゃなかったらどんなによかっただろうって思う。


「あっ」


そのナツミは私の心の中を知ってか知らずか、教室の入口を見る。


「カナさんだ」


「えっ」


私は聞いた瞬間、ナツミと同じ方向を見た。

そこには何事もなかったかのように教室へ入ってくるカナさんの姿が見えた。

そして私達の横を通って自分の席に座った。


「お礼言ってくるね」


「うん。いってらっしゃい」


お礼を言うのが一番の目的。

でも伝えたいことが他にもあった。

私は高鳴る胸を抑えてカナさんのところまで行く。

緊張していた。

とても緊張していた。

まるで愛の告白をするかのような気分だった。

周りはみんな楽しそうにお喋りをしている。

でも私にはとても静かに思えた。

教室はたくさんの人がいる。

でも私にはカナさんと2人っきりに思えた。

周りなんて全く認識できなくなっていた。


「あの……カナさん?」


私が声をかけるとカナさんはこちらを見てくれた。


「さっきはありがとう」


「具合がよくなってよかったわ」


にっこりと微笑むカナさん。

でもその微笑みはナツミの笑顔とは違う。

ナツミは本当に嬉しいときにしか笑顔を作らない。

けれどカナさんはそうじゃなくても微笑むことができる。

私と同じだなって思った。


「カナさんに聞きたいことがあるんだけど……」


「聞きたいこと?」


「私はここにいる、って誰に向けて書いたの?」


私がそう言った瞬間、カナさんは驚いた顔をした。

でもそれはほんのすこしの間。


「あなたも宇宙語とか詳しいのね」


すぐにいつもの表情に戻った。


「うん。詳しい」


そして私は告白した。


「……実は私、地球人じゃないの」


それは私にとって愛の告白よりもずっと重いもの。

ずっとずっと誰にも言わずに秘密にしてきたこと。

自分でもなんでこんな場所で、こんな時に言うのか分からない。

相手がカナさんなのかもきちんと説明できる気はしない。

本当はグラウンドにカナさんが書いた文字について聞きたかっただけだった。

でも思わず言ってしまった。

言葉が思わず出てきてしまった。

たぶん、何かがかっちりと当てはまったんだと思う。

色々な状況、空気、出来事、相手、時間などがぴったり収まったんだと思う。

だから私の中の何かが、今言うように指令を出したんだと思う。


「それって……」


カナさんはまた驚いたような表情を見せる。

そして周りをきょろきょろ見回した。

私も同じことした。

そして周りにたくさんの人がいることが分かった。

分かったっていうか、それまで忘れていた。


「ごっ、ごめんなさいっ!」


そこで私は我に返った。

なんてことを言ってしまったんだろう。

急に恥ずかしくなった。


「変なことを言って……」


幸いにも、私の告白を聞いた人は当人のカナさんだけ。

ナツミがこちらを見ているけど、なんて言ったかは分からないはずだ。


「大事な話ができる場所があるの」


とても真面目な顔をしてカナさんは言う。


「明日、大丈夫?」


明日は土曜日。

学校はない。


「うん……。部活とかもしてないし」


「じゃあ駅前の公園で待ち合わせしましょう。朝10時でいい?」


「うん……」


よく分からないけど話を聞いてくれるみたい。

そのことで私は少し安心した。

でもちょっと怒っているような雰囲気もあって、不安もあった。

とりあえず明日、話をしようって思った。


「何を言ったの?」


机に戻るととても嬉しそうな表情をしているナツミがいた。

お礼を言いにいっただけじゃないのが分かったからだと思う。


「もしかして愛の告白っ?」


ナツミからしたらからかうために言ったのかもしれない。

でも、そう思ってくれた方がよさそうだなって思った。


「うん。そんな感じかな」


「まじでっ!」


「恥ずかしいから誰にも言わないでね」


「当たり前っ! 応援してるから頑張ってねっ!」


「声が大きいって……」


「ごめん、ごめん。で、返事は?」


「……明日だって」


「意外と焦らしてくるねっ!」


「……何でそんなに嬉しそうなの?」


「前から怪しいって思ってたけど、本当にそうだったって嬉しさ?」


「……そう見えてたの?」


「前からカナさんのこと目で追いかけてたしっ!」


やっぱりナツミは鋭いって思った。


「私のを教えたんだからナツミのも教えなさいよ」


ナツミのことだから好きな人はいないんだろうな。

なんて勝手に思っていたけれど……


「あっ、あたしのっ? それはどうでもいいじゃんっ!」


顔を赤くして必死にいう感じ。

この反応はいないってわけじゃなさそう……。

いない、じゃなくて、どうでもいいって言ってるし。


「ナツミだけ私のを知ってるなんてずるいっ!」


「ずるくないっ! 絶対に言わないからっ!」


どうやら意地でも言わないみたい……。

っていうかなんだか私が本当にカナさんのことを恋愛感情で見てるみたいになっている。

カナさんのことはそんな風には見てない。

ただ私の秘密を思わず言ってしまっただけ……。

私が地球人に恋するはずなんて絶対にない。

私はどきどきする胸に収まれと命令する。

当たり前だけど、そんな命令は届くはずもなかった。

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