08
「大丈夫? とても顔色が悪いけど……」」
心配そうにお母さんは私に言った。
きっと私はそう言われるような顔なんだろうなって思った。
「大丈夫」
でも朝ごはんを食べる気はしない。
食べても吐いてしまいそうな気分だった。
「ちょっと寝付けなかっただけ」
「具合が悪いなら学校を休んでもいいけど……」
「熱とかもないし、大丈夫」
「無理しないようにね」
「うん。それじゃ、行ってきます」
そう言って家を出た。
本当に具合は悪くない……はず。
ただ悪い夢を見ただけ。
たまに見る、嫌な夢。
でも昨日のは今まで以上にきつかった。
見ている間は本当に夢だとは思えない。
秘密がばれ、みんなに責められ、自殺する夢。
最悪だって思った。
でもまるっきりの夢だとは思えない。
きっとこれは警告。
正体がバレたらこうなるんだというもの。
そうならないためにも、秘密がバレないことが一番大事だ。
だから今日も休まずに学校へ向かう。
どんな行動でバレるかは予想もつかないから……。
「おはようっ!」
教室に入るとナツミの姿が見えた。
それはいつものこと。
いつものナツミの笑顔。
でも私は瞬間的にあの夢を思い出してしまう。
「うん。おはよう」
でもそんなことをナツミに気づかれてはいけない。
もしかしたら夢と同じことが起こるかもしれないから。
「どうしたの? 具合悪いの?」
覗き込むようにナツミは私を見る。
普通にしているつもりなのに。
それでもナツミは気づくんだなって思った。
「ちょっと寝不足なだけ」
私は無理やり笑顔を作って言った。
「こういう時はゆっくり家で休みたいんだけどね」
「だよねー。あたしも疲れてる時は学校休んで部活だけでたいって思うもん」
「部活は出るんだ……」
「もちろんっ! 運動しないと疲れ取れないしねっ!」
「何その理論……」
私は心の中であれは夢だと言い聞かせる。
眼の前にいるナツミは夢のナツミとは違う。
私の秘密も知らないし、誰かに言いふらすことなんてできない。
だから私は怯える必要なんてない。
「いつきもバスケ部に入ったら分かるよっ!」
「遠慮しとく」
私はなんとなく教室の時計を見る。
もうすぐチャイムがなる時間。
「じゃまた後でねっ!」
ナツミは自分の席に戻る。
そして近くの人とお喋りを始めていた。
本当にみんなと仲がいいなって思う。
私もそろそろ自分の席に行かないとチャイムがなって……
「チャイム……」
なんだか苦しい。
軽くめまいがする。
このままじゃ……
私は自分の席に向かわずに教室を出る。
出るときにカナさんとぶつかりそうになった。
「ご、ごめんなさい」
私は謝って廊下に出る。
そしてトイレへと向かう。
苦しい……。とても苦しい……。
トイレで休んで……
チャイムが鳴り響いた。
それは夢の中の耳を突き刺すようなものとは違う。
普通の、普通の大きさの音。
でも私ははっきりと夢の出来事を思い出してしまった。
「いっ……息が……」
吸えない。
頭も痛い。
前もよく見えない。
何が……。
何が起こっているの……。
「なんで……」
私はその場にうずくまった。
もう一歩も歩けなかった。
死ぬ。私はここで死ぬ。
胸が苦しい。息ができない。
誰か助けてっ!
そう叫びたい。
でも、できない。
みんな地球人。信用なんてできない。
こんなところを見られたら、正体が……
私は必死に体を動かして、誰もいない教室に入った。
苦しい……苦しい……苦しい……
「ひくっ……なんで……なんで……」
このまま息ができなくて私は死……。
「嫌だ……しっ……死にたくない……」
「落ち着いてっ!」
声がした。
見るとカナさんの姿があった。
「カナ……さん……?」
カナさんは私を抱きしめてくれていた。
「落ち着いて。過呼吸を起こしてるわ」
「過呼吸……」
「酸素は足りてるの。足りてないって錯覚してるだけ」
カナさんの声はとても柔らかくて安心感があった。
少しずつ心が落ち着いていくのが分かる。
「ゆっくり、ゆっくり呼吸して」
「……うん」
私はゆっくり呼吸した。
パニックもいつの間にか収まっている。
死のイメージも感じなくなった。
「私はここにいるから」
カナさんはさらにぎゅっと抱きしめてくれる。
「だから安心して」
そしてカナさんは私が落ち着くまでずっとそばにいてくれた。