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07

「どうしたの? 話があるって……」


私は学校の裏に呼び出された。

そこには険しい顔をしたナツミがいた。

いつものにこにことした明るい感じは全く無かった。


「ど……どうかしたの?」


自然と震える声。


「あたし達を騙してたのね」


はっきりとした声だった。

そしてその言葉が意味することはすぐに分かった。

私の正体がバレている。

私が地球人じゃないってことが。

1番知られたくなかったことが。

何でかは分からない。

でも今はそんなことは重要じゃなかった。


「今まで何食わぬ顔で生活してたみたいだけど、もう騙されないからっ!」


とても怒っているのが分かる。


「ちょっと待ってっ!」


「何っ!」


「わっ、私は騙そうなんて気は……」


そう。

私は騙す気なんてない。

ただ普通に生活してきただけ……。


「うるさいっ! そうやって地球人のふりして何が目的なのっ!」


「目的なんて何も……」


「また嘘つくっ! どうせ仲間を呼んで地球を侵略する気でしょっ!」


「そんなことしないっ!」


「ならどうして今まで隠してたのよっ!」


「それは……」


だって言える訳がない。

自分が地球人じゃないなんて……。


「あたし、いつきのこと信じてたのに……」


ナツミの目から涙がこぼれていた。

ナツミが泣いていた。


「せっかくできた友達だって思ったのに。それなのに騙してたなんてひどい……」


「だからそんなつもりじゃっ!」


私は必死に訴えようとした。

でも通じる気配なんてまるでない。


「もういい……。みんなに伝えてあるから」


「それって……」


全身の力が抜けそうになった。

ナツミだけじゃない。

みんなにもバレている。

地球人じゃないって。


「なっ、なんで……。なんでそんなことするのっ!」


友達だったのにっ!

仲良しだったのにっ!

でも、やっぱり宇宙人だってバレたら裏切られる。

思った通り。最悪なことに。


「宇宙人なんて死ねばいいんだっ!」


「私だって好きでこの星に生まれたわけじゃないのにっ!」


瞬間、チャイムがなった。

まるで大災害を伝えるかのような、とても大きな音。

いつも聞いているチャイムの音と似ているようで、全然違った。


「ひっ!」


私は思わず耳を塞いだ。

大きな音で響くチャイムの音は、私の耳を壊す魔獣の声に思えた。

そしてチャイムが鳴り止んだ後は放送があった。


「宇宙人が発見されました。宇宙人が発見されました」


「これって……」


吐き気がしそうだった。

街のすべての場所に伝える放送。

それで私の秘密が暴露されていた。


「名前はいつき。すぐにインターネットで姿が確認できます。地球人のふりをしていますが、宇宙人です」


私は慌ててスマートフォンを操作した。

そこには私の顔写真が貼ってあった。

住所まで書いてある。


「何なのっ!」


私は思わずスマートフォンを投げた。

そして耳を塞ぐ。

でも貫くように放送の声は耳に侵入してくる。


「いつきは危険な宇宙人です。見つけ次第、痛めつけて無力化してください。繰り返します。見つけ次第、痛めつけて無力化してください」


何なのこれ……


「これでいつきも終わりねっ!」


嬉しそうな顔をしているナツミの姿があった。

その顔は前は見ていて楽しくなるものだった。

でも今は恐怖しか感じない。


「今まであたし達を騙してた罰よ。あなたが痛めつけられる姿はインターネットで公開されるわ」


「なんで……。私、悪いことなんて何もしてないのに……」


ずっと想像してきた場面。

でも実際になってみると信じられないって思った。

信じたくなかった。


「いたぞっ!」


「こっちだっ!」


「痛めつけてやるっ!」


「殺すなよっ! 実験室に持っていくんだからなっ!」


「ひっ!」


私は走った。

逃げないとどんな目に合うかは一目瞭然だった。

死ぬより辛い未来が待っているに違いなかった。


「逃げたぞっ!」


「追えっ!」


でもどこに逃げる?

どこなら逃げられる?


「逃げ場なんて……ない……」


回りにいるのは地球人。

みんな私の敵。

私を痛めつけ、実験材料にしようとしている。

そして仲間は1人もいない。

私はこの世界に1人ぼっちだから……。


「お父さん……。お母さん……」


私は思わずつぶやく。

そうだ。

2人なら助けてくれるかもしれない。

私は必死に家まで走った。


「助けてっ! お父さんっ! お母さんっ!」


リビングに2人はいた。

でもとても険しい顔をしている。


「お願いっ! みんなに追いかけられてるのっ! もう……助けてくれるのは……」


「娘をどこにやった?」


お父さんの冷たい声が聞こえた。

そして手に包丁が握られているのに気がついた。


「……え?」


「そうよっ!」


そして聞こえるお母さんの怒鳴り声。

そんな声を出している2人なんて今まで見たことがない。


「私達の子供をどこにやったのよっ!」


「そっ、そんなの……」


私が知ってるはずがなかった。


「お前が俺達の娘に成りすまして産まれたんだろっ! 本当の娘はどこにいった!」


「しっ……知らない……。そんなの……知らない……」


「あんたが殺したのよっ! 私達の娘を殺して自分が産まれたのよっ!」


「殺してやるっ!」


「お……お父さんっ……」


「お父さんなんて呼ぶなっ! 汚らわしいっ!」


何で……。

何で…………。


「あんたみたいなのが産まれてくるんだったら自殺しとくんだったわ!」


「わっ……私、いい子だったでしょ……。なっ、仲良くしてきたでしょ……。ねぇ……」


私はただ地球人じゃなかっただけ。

生まれてきた場所を間違えただけ。


「黙れっ! 化物めっ!」


「何で……」


今まで頑張って生きてきた。

でも地球人じゃないってだけで、ただそれだけで……。


「ここにいたぞっ!」


玄関から人が土足で入り込んでくる。

逃げ場はない。

お父さんも、お母さんも助けてくれない。

これから私は暴行され、研究所に連れていかれ、拷問まがいの実験を受けさせられる。

それならその前に……。

私はお父さんが持っていた包丁を取った。

そして自分の喉に押し当てる。

ひやりとした冷たい感触があった。

一筋の血が流れるのが分かる。

でも不思議と痛みはなかった。


「今度は正しい星に……」


私はそう思いながら手に力を入れた。

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