05
入学式が終わって教室に移動した。
私は3組。
当たり前だけど、周りはみんな知らない人……
ってわけじゃなかった。
「まさか本当に同じクラスになれるなんてねっ!」
にこにこ顔のナツミさん。
私もまさか同じクラスになるとは思ってなかった。
「そうだね。知っている人がいて安心した」
入学式後はクラスに戻って簡単な説明。
そして後は解散だった。
自己紹介は入学式ではやらないみたい。
中学の入学式のことなんてもう忘れてしまっていた。
「改めてこれからよろしくねっ!」
「うん。よろしく」
ナツミは予想通りとても社交的な性格。
そして友達も多いっぽい。
入学初日だというのに色々な人と話をしていた。
ナツミさんが初対面の人にも気軽に話しかけている。
そのコミュニケーション能力の高さは素直に凄いって思った。
「友達多いんだね」
「普通だよっ!」
言いながらまた明るく笑う。
「やっぱり知ってる人が多かったりするの?」
「うーん、ぼちぼちってところ。同じ中学の人もいるし、中学の時の部活で会ったことある人もいるって感じかな」
「この後、どうするの?」
「バスケ部を見に行こうかなって思ってるんだよね。いつきさんもどう?」
「……パスで」
「バスケだけにっ!」
「そういうつもりで言ったわけじゃないから……」
そう言いつつ私はちらりと窓際の席を見る。
窓際の、ちょうど真ん中の席。
そこには朝に見かけた女の子が座っていた。
相変わらず可愛い……。
でも誰とも話さずにいるのがちょっと気になった。
「カナさんが気になるの?」
そんな私にナツミさんが言う。
どうやらあの女の子はカナさんって言って、ナツミさんが知っている人みたい。
「ちょっと気になって……」
「可愛いからねっ! 一目惚れするのも無理ないと思うっ!」
「ちょっ……声が大きいって。あとそういうのじゃないしっ!」
「ごめんごめんっ!」
「ナツミさんと同じ中学だったの?」
「うんうん」
ナツミさんは首を振って否定した。
なんだかすごく子供っぽい仕草だった。
「違う中学だったけど、有名だったからね」
「モデルやってたりとか?」
「そういうのじゃないかな。すっごく可愛くて、超変わった人がいるって感じだったね」
あなたより変わってるの?
なんて思わず声に出して言いそうになった。
「変わってるって?」
「誰からの誘いも断るとか、どんなイケメンに告白されても即断るとか」
それだけじゃただの人嫌い。
他校にまで噂が広まるほどじゃないって思った。
けれど……
「あと教室をペンキで真っ赤にしたり……」
「へ?」
「1ヶ月間、どんなに怒られても全然しゃべんなかったり」
「それは……」
「校庭にでっかい落書きをしたりとか」
「…………」
確かに超変わった人っていう噂が流れるのも無理ないって思った。
そんなことをしてたらとても目立つはずだ。
私ならそんな目立つ行為、絶対にできない。
とても変わった人……。
私は改めてカナさんを見る。
とてもそんな風な人には見えない。
あんなに可愛いのにって思ってしまう。
でもそんなことをする人は、どんな容姿なのかって言われても困るけど……。
「あたしはそういう人好きだけどねっ!」
「ナツミさんはそういう人っぽい」
「でしょっ! でしょっ! だからバスケ部に誘おうかなって思ってるんだ」
「そうなんだね」
なんて言うけど、多分無理だろうなって思った。
「気になるならいつきさんも話しかけてみれば?」
「私は……いいかな」
「せっかく同じクラスになれたのにっ!」
「私は普通の人だからね」
「そうかなっ! なんか他の人と違うっ! って感じがするっ!」
「えっっっ!」
思わず驚いてしまった。
まさか、私が地球人じゃないってことがバレてる……?
「私、変に見えるかな?」
「変っていうより……」
ナツミさんが考え込む。
私は笑顔をキープしていたけど、心の中はとてもドキドキしていた。
「大人っぽいって感じかなっ!」
「大人っぽい?」
「うんっ! なんかクールで格好いい感じが他の人と違うなーって思ったんだっ!」
「いうほどクールでもないし、格好良くもないよ」
よかった。
ほっと胸をなでおろす。
正体がバレたみたいじゃないみたい。
でもナツミさんは勘が良さそうだから、本当に気をつけないといけないって思った。
「ナツミ!」
教室の外から声が聞こえた。
どうやら他のクラスの人がナツミさんに声をかけてるみたい。
「バスケ部見に行くんでしょっ!」
「うんっ! すぐ行くっ!」
言いながら自分の鞄を持つ。
色々な荷物は親に持って帰ってもらうみたい。
私もそうしようって思った。
「あたしね、公園で見た時からいつきさんと同じクラスになれたらいいなって思ってたんだ」
きらきらとした眩しい笑顔。
多分、本気で言ってるんだと分かった。
「だからよろしくねっ!」
「うん。私も同じクラスになれて嬉しい」
気をつけなくちゃいけない人。
でもとてもいい人だというのはもう分かっている。
「それじゃ、行くからっ! ばいばいっ!」
「うん。ばいばい」
ナツミさんは大きく手を降って教室を出る。
私も小さく手を振替した。
「どうしよう……」
もうみんな小さなグループを作って行動している。
私もどこかに入れてもらってもいいけど……
「……帰ろうかな」
そう思った。
私は席を立って廊下に出る。
お母さんが誰かの母親と楽しそうに話をしていた。
「お母さん、ファミレス行こう」
なんだかんだでお腹すいてる。
「あら、さっきとても仲良さそうに話してたじゃない。その人とどこか食べに行かないの?」
「バスケ部を見に行くって」
「いつきちゃんも行けばよかったのに」
「部活はいいかな。疲れそうだし」
「あの可愛い子に話しかけたら?」
「今日はもう難しいかな」
コミュニケーションスイッチはもうオフにしてある。
ファミレスでご飯を食べたら、家でのんびりしたい気分。
「しょうがないわね。……あっ、うちの娘をよろしくお願いします」
なんてさっきまで話してた人に挨拶するお母さん。
なんだか恥ずかしい気分。
そして私とお母さんは廊下を歩いた。
私はカナさんのことが気になった。
ナツミさんから聞いたカナさんの話はちょっと信じられない。
だって本当にそんな噂になるようなことをする人には見えないから。
でもそんな人がそういうことをするなら……
「何か意味があるのかな?」
「んっ? どうかしたの?」
思わず声が出てたみたい。
「なっ、何でもないっ!」
私は言いながらやっぱりカナさんのことを考える。
一目惚れってわけじゃない。
でもそれに近い何かを感じた気がした。
校庭に書かれた落書き。
その写真ならまだ残ってるかもしれない。
それを見たいって私は思った。