13
休み時間のことだった。
「……美香もどうかって思うわ」
「そうね」
自分の机で本を読んでいるとそんな声が聞こえた。
テストももう3日前。
休み時間とかに勉強をしてる人もちらほらといる。
今日は美香は学校に来てない。
美香はたまに休むこともあった。
体調が悪いっていうより、さぼってるんだって思う。
そして今、美香の話をしているのはいつも一緒にいる2人。
この2人は学校をサボることはない。
だから同じグループでも色々あるんだって思った。
「今日も学校に来てないし」
「……不良だしね。あの子」
「いちいち偉そうだしね」
「あたしめっちゃ馬鹿にされてる気がする」
なんだか陰口っぽい会話。
聞きたくはないけど、なんだか気になる。
っていうか教室で堂々と話すのもどうかって思う。
「変な付き合いとかないの?」
「さぁ。それは知らない」
「内申に響くことは勘弁してほしいよね」
「それはそうだよね」
「それにたまこさんのこともさ」
たまこの名前が出て思わず見そうになった。
でも我慢して聞き耳だけ立てる。
「嫌がってるのに無理やり連れ回したり仕事押し付けたりね」
「うん。絶対に迷惑だよね」
どうやらたまこに色々してるのは美香が主導みたい。
そして2人はそれを快く思ってないみたいだ。
「いくら幼馴染って言ってもあれはないって思う」
幼馴染なんだ……。
初めて知った。
私はちらりとたまこを見る。
たまこは真剣に勉強をしているみたいだった。
どうやら2人の声は聞こえてないようだ。
聞こえたらどうするんだろうってなんだか私がドキドキする。
「何か言ったら?」
「言ったに決まってるじゃない」
そうなんだ。
って私は思った。
何だか2人は美香の金魚のフンとか子分とかそういう立ち位置だって思ってた。
でも当たり前だけど2人にも自分の考えとか意志とかがあるんだって気づいた。
心の中で私は2人に謝った。
謝りつつ2人の会話を聞いた。
「それでどうだったの?」
「口出しするなってさ」
なんだか呆れ口調な感じ。
「今日だってたまこさんを一緒にサボらせるとか言ってたし」
「それはいくらなんでもまずいっしょ」
本当にひどい話だって思った。
テスト前なのにサボらせようとするなんて。
……テスト前じゃなくても駄目なのか。
「さすがにそれは止めたけどね。超不機嫌になって電話切られた」
「苦労してるんだねぇ」
「あんたが人間関係とかに無頓着すぎるのよ」
「だって面倒くさいんだもん」
「私も美香と最初に友達になってなければこんな苦労もしなくてすんだのにね」
「無駄に面倒見がいいよね」
「無駄は余計」
それから2人の話題は変わった。
あそこのスイーツが美味しいとか、あの古着屋がいい感じとかそういうの。
スイーツの話はなんだか気になった。
でも私はそこまで聞くのはマナー違反だって思って、また本を読むのを再開した。
……
…………
………………
復習をしている間にテストの日になった。
そしてあっという間に最終日。
なんだかもやもやとしたものがあるままテストを受けた。
高校生になったら勉強が大変そうだな。
そう思ってたけど、なんとかやれてるって思う。
私はテストが終わるたびにたまことここが駄目だったとか話をした。
そして放課後、家に帰りながらカナに質問したりする。
美香もさすがにテストは来てちゃんと受けてる。
ちゃんと回答してるかまでは分からないけど……。
あの2人はいつものように美香と話をしてる。
どうやら不満もあるけど友達付き合いは続けるみたいだった。
思えば美香が2人+たまこ以外と仲良くしてるのを見たことがない。
人付き合いが苦手なのかもしれないって思った。
でもだからってたまこを無理矢理に誘っていいわけじゃない。
それにこのままじゃ本当にたまこがサボらせられるかもって思った。
……やっぱり頭の中がもやもやする。
やっぱりたまこに言おうって思った。
それが駄目だったら美香に言おう。
時計を見ると残り時間はあんまりなかった。
今はこれに集中しなきゃっ!
私は気合を入れて回答を書き込んで行った
「やっと終わりましたね!」
たまこのほっとした、嬉しそうな表情。
テストはそこそこの手応えがある感じだった。
「そうだね」
嬉しそうなたまことは反対に、私はぎこちない感じになった。
「どうかしたんですか?」
そんな私に心配そうにたまこは言う。
「もしかして名前を書き忘れちゃったんですかっ!」
やっぱりっていうかたまこはテスト関連の事を言う。
「そうじゃないんだよね」
私は言った。
ちゃんと名前書いたよね?
って焦る気持ちもあったけど。
でも今はたまこの話の方が大事だって思う。
「話があるからちょっといいかな?」
「たまこにですか?」
「うん。すぐ終わるから」
「……分かりました」
私とたまこは教室を出る。
先生が来るまで少し時間がある。
その間に済ませようって思った。
「……どうかしたんですか?」
人気がない廊下で止まるとたまこは言った。
ちょっと不安そうな表情。
「お願いがあるんだ」
「お……お願い?」
「これからは美香の誘いとか断って欲しい」
「それって……」
言われたことが意外だったのか、たまこは言葉に詰まる。
「普通に遊んでるなら何も言わない」
でも美香はそうじゃなかった。
「たまこにはたまこのやるべきことがあるんだって思う」
私が言うとたまこは凄く悲しそうな顔をする。
なんだか胸が痛くなった。
「私は料理部で頑張ってるたまこが好き」
「……いっくん……」
「だからそれを邪魔されてるのが物凄く嫌なの」
「……うん」
「たまこが言いにくいなら私が言うから」
たまこはうつむいたままだった。
何か凄く考えてるみたい。
「……うんうん。たまこが自分で言う」
とても小さな声だった。
でもはっきりとした言葉だった。
「吉田さんにも言われたことあるんです」
吉田さんは多分あの2人の面倒見がいい方だと思う。
「でもどうしたらいいか分からなくて……」
「そうだよね。難しいって思う」
「美香ちゃん……。前は凄く優しかったんだ」
「そうなんだね」
「たまこがいじめられた時もいつも助けてくれた」
懐かしそうにたまこは言う。
私は幼馴染とかそういうのはよく分からない。
でもたまこが今でも昔の美香との思い出を大切にしてるのは分かった。
「だからって思ってたけど、でもこのままじゃ2人とも駄目になるだけですよね」
「……でも無理はしなくていいんだよ」
「大丈夫ですっ!」
たまこは言った。
「たまこも料理部でもっと頑張りたいですしっ!」
心に決めたって感じがした。
多分、ずっと悩んでたんだろうって思う。
部活を取るか、幼馴染を取るか。
勉強もあるしでとっても大変だったはず。
私はたまこの言葉を聞けてなんだかほっとした気分になった。
「いっくん、心配かけて……ごめんなさいです」
「うんうん。全然大丈夫」
なんだか心のもやもやが晴れた気がした。
たまこが誘いを断ることでいじめられるかもしれない。
それが気がかりだった。
でもきっと大丈夫だろうって思う。
問題が起きても吉田さんがなんとかしてくれそう。
「それじゃ教室に戻ろうか」
「はいっ!」
私とたまこは来た廊下を戻って教室へ。
テストよりも難しくて大事な問題が解けたような気がした。
私はたまこに自分の気持を言えて良かったって思う。
自分の気持ちを言うことで解決することもあるんだなって分かった。
これから先はたまこと美香の問題。
でもできるなら昔のように仲良しになって欲しいって思った。
……
…………
………………
「部活久しぶりで楽しかったっ!」
スマートフォンから楽しそうな声が聞こえる。
電話の相手はもちろんナツミ。
顔は見えないけど、嬉しそうにしている表情は簡単に思い浮かべることができる。
違うクラスになってナツミを見る機会は減った。
でもたまに発見すると目で追ってしまう。
ナツミって無駄に目立つから。
「ナツミの場合は終わったっていうより始まったって感じだね」
テストの終わり。
ではなく
部活の始まり。
「上手いこと言うねっ!」
「ナツミってそんな感じだもん」
テストより部活の方がずっと大事っていうイメージ。
私も部活の方が好きだけど、でもやっと終わったって思った。
出来は……ぼちぼちってところ。
でも数学は赤点じゃないってのは胸を張って言える。
それでも平均以下なんだけど……。
「そんなんでテストの方は大丈夫だったの?」
私は言う。
でもナツミはそんなに成績悪くないんだよね。
不思議だなって1年生の時から思ってる。
「まぁまぁかな。いつも通りって感じっ!」
「赤点は取らない?」
「そりゃね。赤点は取らないよっ!」
「意外と勉強してる?」
「最低限はね」
「部活頑張ってるのによくそんな元気あるね」
私なら絶対に勉強なんてできないって思う。
「成績悪いと試合に出してもらえないからねっ!」
「そうなんだ。それは厳しいね」
「学生の本分は勉強だからっ!」
なんだか耳に痛い言葉……。
「それに成績悪いと将来の幅も狭まるしねっ!」
「……なんだかナツミっぽくない台詞な気がする」
ナツミってもっとてきとうなイメージがあるのに。
でもそんなことはなくて、とっても真面目。
「将来のこととか考えてるの?」
「ちょっとだけだけどねっ!」
「スポーツ選手とか?」
私は何となくアイコを思い浮かべて言った。
ナツミもプロとか目指してるのかなって。
でもナツミは言う。
「そんなのあたしには無理だよっ!」
って。
それは隠す感じでも、謙虚な感じでも、暗い感じでもなかった。
「そうなんだ。ナツミならなれそうだなって思ったけど……」
「それはあたしを買いかぶり過ぎだって!」
ナツミの楽しそうな声が聴こえる。
楽しそうで、嬉しそう。
「あたしより凄い人はたくさんいるしねっ!」
そんなこというナツミの言葉はなんだかキラキラしていた。
自分より凄い人がたくさんいる。
そのことがとっても嬉しそうな感じ。
「世界は広いってことだね」
「うんっ! 宇宙ぐらいにねっ!」
「太陽って凄く大きいでしょ」
「……うん? そうだねっ! 大きいねっ!」
いきなり太陽の話をしたせいだって思う。
ちょっと間があった。
「地球から見ると太陽より大きい星ってなさそうだけど、宇宙には太陽よりずっと大きい星もあるって感じかな」
「太陽より大きい星ってあるんだっ!」
「うん。アンタレスって知ってる?」
「……なんとなく」
「さそり座で1番明るい星なんだけど比較すると太陽が豆粒になるぐらい大きいんだよ」
確か720倍ぐらいだった記憶がある。
「そんなに大きいんだっ!}
なんだか興奮気味の声。
素直に驚いてくれてなんだか嬉しい気分になる。
「そのアンタレスよりも大きい星ももちろんあるしね」
「宇宙って凄いんだねっ!」
「うん。とっても凄いんだよ」
……ってあれ? 何の話だっけ?
ちょっと考えていると……
「つまりあたしが太陽でプロになれるぐらいの実力だって思ってたけど、でも本当はアンタレスとかもあるって知ったってことだねっ!」
ナツミの言葉を聞いてそんな話だったって思い出す。
「でもあたしが太陽ってのは言い過ぎじゃないかなっ!」
「かもね」
って言いつつぴったりだって思った。
ナツミは太陽のイメージ。
カナは月。
たまことアイコは……後で考えよう。
「でもそれなら将来したいことってあるの?」
「そうだね。スポーツリハビリをする理学療法士になりたいって思ってる……」
なんだかそれは少し小さくなっていく声だった。
恥ずかしそうな、そんな感じの声。
「リハビリとかを手伝うの?」
「まぁそんな感じかな」
「そういう仕事もあるんだね」
「うん。部活やってるとね、怪我でやめていった人達も見てきたの。それに……」
「それに?」
「あたしも一回膝をやっちゃったんだよね」
「やっちゃったって……」
明るく言うけど、でもなんだかぞくって寒気が走った。
「中学2年生の時に半月版をね。手術してリハビリして良くはなったよ」
「手術って……」
なんだか想像以上な話だった。
考えただけでも怖い気がする。
「その時のリハビリを手伝ってくれたことが心に残ってるんだって思うっ!」
「そうなんだね」
「だからあたしも昔の自分みたいな人のお手伝いをしたいんだっ!」
「凄いね」
心から思った。
やっぱりナツミは太陽だなって。
「あたしは何をしたいかも分からないんだけどな」
「いつきなら見つけれるって思うっ!」
「そうだといいんだけどね」
私は少し笑った。
なんだか青臭い話になってしまった。
ちょっと恥ずかしい。
でもナツミの人生にも当たり前だけど、落ち込むことがあったんだなって分かった。
膝の手術。
どれだけ怖かったか、どれだけ辛かったか私には想像もできない。
でもきっと他のみんなも似たようなものを抱えてるんだろうって思う。
それから私とナツミは1時間ぐらいアニメとかの話をした。
思わず長話になるのがナツミとの電話。
話をしながらナツミには絶対に夢を叶えて欲しいなって思った。
きっとそれは私の夢が叶うよりずっと嬉しいことだから。




