04
「準備できた?」
お母さんの声が聞こえた。
私は鏡を使わずに自分の服装をチェックする。
「うん。多分、大丈夫」
忘れ物はなさそう。
制服も乱れてない。
似合うかどうかは置いといて。
「多分って曖昧ね。もう高校生なんだからシャキッとしなさいっ!」
「それ中学生の時にも聞いた気がする……」
お母さんは張り切って化粧や服選びをしている。
多分、私より気合が入っていそう……。
私の方は、普通ぐらい。
高校生になるっていっても、なんだかそんな実感はあまりない。
子供の時には高校生はとても大人に見えた。
でも今の私は大人に見えるだろうかって思うと、とても疑問に思う。
「今日、お昼はどうするの?」
本当は家族3人で食べに行く予定だった。
でもお父さんが無理になったみたい。
お仕事だからしょうがないよね。
「そうね。適当にファミレスで食べましょう」
「ファミレスかー」
「ファミレスじゃ不満? 贅沢ねっ!」
「もう高校生だしね」
なんて言ったところで私はファミレスが好きだ。
不満なんて全くないし、それをお母さんも分かってる。
「でもお友達ができて、誘われたらそっちに行くのよ」
「分かってるってー」
お父さんとお母さんは私に友達ができることを1番大事に思ってるみたい。
勉強ができて友だちがいない。
勉強はできないけど友達が多い。
なら後ろの方がいいっていう考え。
だからあんまり勉強しろっ!って言われないのは嬉しい。
「そろそろ時間なんだけどっ!」
私の言葉にお母さんが言う。
「どっちのネックレスがいいのか迷ってるのよっ!」
「どっちでもいいって思うんだけど……」
正直言って私はネックレスをつける良さとかが分からない。
おしゃれとかあんまり興味ないし。
「こっちの方がお気に入りなんだけど、でもさすがに派手すぎるかしら……」
なんてぶつぶつ言いながら真剣な目をしている。
「入学式から遅刻。なんてことは避けたいんだけどな」
私はぼんやりしながら母親を待った。
「高校生か……」
どんな高校生活になるのか想像もできない。
思いもよらない出来事があるかもしれない。
「でも平穏が一番だよね」
なんて思う私はきっと面倒くさがり。
そして怖がり。
「お待たせっ!」
どうやらネックレス選びを終えたみたい。
そして選ばれたのはお気に入りの、少し派手目なやつ。
「それじゃ行くわよ」
「うん」
そんな感じで私とお母さんは家を出る。
「でもよかったわ」
「何が?」
「高校生になると親が入学式に行くの嫌がるって聞いてたからね」
「そうみたいだね」
私は親が
高校入学式 親 出席
みいたいなことを調べていたのを知ってる。
直接は聞いてこなかったけど、私がどう思っているのかも気にしていた。
「私は嫌じゃないけどね」
もちろんどうしても来てほしいってわけじゃない。
「本当にいい子に育ったわね」
「いい子だからお小遣い増やしてほしいなっ!」
「……まぁ高校生になったしね」
「やったっ!」
「高校生なんだからちょっとは服装にも気を使いなさいよ」
「気が向いたらね」
なんて感じで私とお母さんは学校へ向かって歩く。
お小遣いが増えるのは嬉しい。
欲しい物はたくさんあるから。
高校生になってよかったって思った。
「あら、同じ学校の人よ」
無遠慮に指を指すお母さん。
「人を指ささないでよっ!」
「あっ! ごめんごめん!」
慌てておろすお母さん。
悪気はないんだろうけど……。
「とっても可愛い子ね」
私はお母さんが言っている人を見る。
ふわふわの長い髪。
ぱっちりとした表情。
まさにお姫様っ!っていう感じの女の子だった。
短い髪でちょっと男っぽさがある私とは正反対な感じ。
なんだかアイドルとも思えるその可愛さは、羨ましさを超えた何かに思えた。
あんな可愛い感じになった自分を全く想像できない。
どんなことを考えて生きてるんだろう?
と思ってしまう。
きっと考え方とかも可愛いんだろう。
私と違って。
「同じ年かしら?」
「たぶん、そうじゃないかな?」
きっとああいう子はクラスでもとても人気があるんだろうなって思った。
私と住む世界が違う。
って感じがする。
「同じクラスになるといいわねっ!」
「そうだね」
見てる分には癒やしになりそうだなって思った。
「あんな子と友達になりなさいよっ!」
「なれたらいいなってのは思う」
お母さんは可愛い女の子が好きだ。
私の顔はあんまり可愛くないからかもしれないけど。
「とりあえず自己紹介頑張りなさいよっ!」
「ほどほどにね」
あんまり張り切りすぎても駄目ってことを私は知っている。
最初のインパクトを強くしても、後々疲れるだけ。
何度も自己紹介を経験してきたから、どうやればいいかは分かる。
普通が一番。
喋りすぎると目立つ。
かといって何も言えないと逆に目立つ。
だから名前+αな感じのオーソドックスが一番いい。
「できたら彼氏も作りなさいよっ!」
「それは無理かもね」
だって私が通う高校は女子校だし。