01
3月。
春休み。
ぽかぽか日和。
補修を受けそうになったこと以外は特に問題もない毎日。
期末テストを無事(?)に終えた私は春休みを満喫してた。
もちろん、カナと一緒に。
春休みも夏休みと同じようにほとんど毎日部室に来てた。
でも夏休みみたいにやらなくちゃいけないことはない。
なので4月の天体についての文章を書いたり、おしゃべりをしたりって感じ。
他の部活の人達は4月の入学式に向けて準備をするみたい。
新入部員の獲得のために。
新入部員が増えれば、増えて活動的になれば、部費も増える……かもしれないから。
でも私とカナが所属してる天文部はあんまりそういうのはしない。
そうカナが決めたから。
部活動紹介でステージを使ってアピールできる時間がある。
それにも参加しないことになっていた。
私は新入部員が入って天体とかに興味持ってもらえると嬉しい。
でも2人だけの部活でいたいっていうカナの気持ちも分かった。
なので特に活動はせず、入りたいって人がいたら対応しよう。
そんな感じに思っていた。
そのことで生徒会の人からちょっと言われたみたい。
部員を増やす努力をするべき。
みたいな感じ。
でもカナはなんだか上手く対応してるみたい。
出来る限りのことはやります?
みたいな感じだと思うけど、詳しいことはよく分からなかった。
「もう1年だね」
区切りがいいところで私は書くのをやめた。
メモ帳を閉じてカナを見る。
だんだんと書くのに慣れてきたので、そんなに時間はかからなくなった。
そろそろ小説もまた書き始めようかなって思ってる。
「だね。1年前は中学生だったってなんか不思議」
カナは読んでいた本を机に置く。
美しい星って表紙に書いてあった。
三島由紀夫の本。
まだ読んだことない。
カナが読み終えたら借りて読んでみようって思った。
やりたいことがだんだんと増えていくのはなんか楽しい。
「1年前は引っ越しの準備をしてたぐらいかな」
言いながら私は思い出していた。
いつも通り、なんとなくな感じで引っ越しの準備をしていたこと。
引っ越しとかも慣れていたからドキドキとかは全然なかった。
でもその時の私に教えてあげたい。
カナっていう素敵な人と出会うことを。
だからもっとドキドキしていいんだよって。
「わたしも入学の準備してたぐらいだね」
「あっという間に過ぎた感じがする」
なんか2年生になるっていう実感はない。
後輩ができるっていう意識はない。
高校入学する時もそうだった。
きっと実感を持てないまま大人になっちゃうんだろうなって思う。
「わたしはなんかやっと2年生。って感じだよね」
「そうなの?」
同じ1年。
でも流れる時間の速さに思うこととは人によって違うんだなって思った。
なんだか不思議な感じがする。
「早く卒業したいなーって思ってるからかもだけど」
「大学生になりたいとか、大人になりたいみたいな?」
「それもあるけど早く家を出たいってのは大きいかなー」
「そうなんだ……」
家を出る。
私はそういうことをあんまり考えたことがない。
なんだかずっと3人で暮らして行くってぼんやりと思ってた。
12月のあの日からは特に。
でもきっとそうらないんだろうって思う。
故郷に帰るか、そうじゃなくてもきっと離れて暮らす時が来るんだなって思った。
「いっちゃんはあんまりそういうのなさそうだね」
「そうだね。家を出るってことは1人暮らしでしょ?」
「うん」
「1人暮らしってなんか大変そうだなって思う」
掃除
洗濯
料理
お風呂掃除
などなど……
今はちょっとお手伝いをしてるぐらい。
でも1人暮らしになったら全部自分でしなくちゃいけない。
なんだか考えただけでも大変そう。
「いっちゃんってそういうの苦手そうだよね」
「苦手。特に料理はだめだなーって思う」
「家ではぐうだらって感じなのがいっちゃんっぽいよっ!」
「私ってそんなイメージなの?」
「うんっ!」
ってカナはとっても明るく言う。
実際にそうだから、反論とかはできない……。
「家事とかてきぱきってこなすいっちゃんはなんか嫌だなっ!」
「カナはそういうの得意そうだよね」
というよりカナはなんでもこなせそう。
家でぐうだらしてるっていうイメージもあんまりない。
じゃあ何してるのかっていうのも想像もつかないけど。
「まぁ普通かな……。そうだっ!」
カナは何か思いついたみたいだった。
「高校卒業したら、2人暮らしするのもいいかもねっ!」
「私とカナで?」
「うんっ!」
「それはいいかもね」
「いっちゃんのためなら家事とか完璧にするっ!」
「その時は私も家事とかするけどね」
カナと2人暮らし……。
なんだかそれもよさそうって思った。
もっとも卒業後に何をしたいかとか何にも考えてないけど。
「カナは卒業した後のこととか考えてるの?」
「ぼんやりと……。だけどね。とりあえず大学かな」
「私もそんな感じ」
でもきっとカナと同じ大学には行けないって思う。
だからカナも2人暮らしをしようって言ったんだと思う。
私はカナと離れて過ごすって考えられないって思った。
私は信用できるのはカナだけだから。
地球には好きな人はたくさんいる。
でも好きだからこそ、正体がバレるのが怖くて信用できない。
そして信用できるのはカナだけ。
だから……
「カナと離れないような進路にするって思うけどね」
「わたしもだよっ!」
なんだか自信満々な感じでカナは言った。
「わたしの使命はいっちゃんを守ることだからねっ!」
「そうだね」
そうは言いつつも私は思う。
守ってくれることより、そばにいてくれることの方が嬉しいって。
そばにいてくれることが私を守ってくれるということかもしれないけど。
「だから進路相談は一緒にしようねっ!」
「うんっ!」
あと2年後に私とカナはこの高校を卒業する。
1年があっという間だった。
だから残りの2年も同じような感じかもしれない。
でも私はやっぱり卒業した後の自分なんて想像もできなかった。
カナと一緒にいることだけははっきりしていたけど。
……
…………
………………
「天分部は新入部員募集しないんだねっ!」
「うん。積極的にはね」
家でナツミと電話中。
毎日ってわけじゃないけど、よく電話してる方だと思う。
ナツミとは相変わらず教室ではあんまり話さない。
カナは私がナツミとかと話をするのがあんまり好きじゃなさそうだから。
こうやって電話してると浮気してる人ってこういう感じだなって、変な感じに思ってしまう時がある。
「バスケ部はどんな感じなの?」
「もちろんばりばり募集するよっ!」
「部員はたくさんいた方がいいもんね」
バスケット部は天文部と違って明確な目標がある。
戦って勝ったり負けたりするのはなんか大変そうだって思った。
頑張るのは好きだけど、私は勝負事はあんまり得意じゃない。
でもそういうのがナツミは好きなんだろうなって思った。
楽しむためももちろんだけど、勝つためにみんなで頑張る。
そういうのが好きそうなイメージ。
「経験者は入ってくれるのはもちろん嬉しいけど、でも初心者が入ってくれた方が嬉しいなっ!」
「そうなんだね。なんだかちょっと意外」
「バスケットは楽しいから好きな人が増えてくれるのは嬉しいっ!」
「ナツミらしいね」
「うんっ! 背の高い子はバレー部と取り合いになるんだっ!」
「背の高い方が有利なんだね」
「もちろんだよっ!」
「でもナツミってあんまり背高くないよね?」
「うんっ! だからいっぱい頑張らなくちゃって思うっ!」
「ナツミってやっぱり凄いね」
「えへへっ! いつきに褒められるとなんだか嬉しいねっ!」
ナツミの笑顔が頭に浮かんでくる声だった。
「いつきも新聞部の頑張ってるよねっ!」
「読んでくれてるんだ」
「もちろんだよっ! 読むに決まってるじゃないっ!」
「ちょっと恥ずかしいかも」
「もしかして照れてる?」
「ちょっとだけね」
「でもおかげで天体とか興味持ったよっ!」
「本当に……?」
「うんっ! たまに空とか見てあれがあの星座かーとか思うようになったからねっ!」
「…………」
なんだか意外で嬉しくって声が出なかった。
読んでくれてるだけじゃなくて、興味を持ってもらえるなんて。
私はナツミは空を見上げてるところを想像した。
それはとても嬉しい光景だった。
「どうかしたの?」
ちょっと不安そうな声が聞こえた。
私の返事が遅かったから。
「ごめん。なんか嬉しくって」
「感動したんだねっ!」
「そこまでじゃないけど……嬉しかった」
「次も楽しみにしてるからっ!」
「うん。頑張って書くね!」
「そういえば今やってるあのアニメ見た?」
「うん。まだ1番新しいのは見てないけど……」
「大丈夫っ! あたしもまだ忙しくて見れてないからっ!」
それから私はナツミとアニメとかの話をした。
バスケ部じゃあんまり話せない話題なのかもしれない。
すごくナツミは生き生きした感じで話している。
30分ぐらい話をして、電話を終えた。
私はいつも通り、ナツミとの通話履歴を消して携帯電話を充電器につなげた。




