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「真っ暗だねっ!」
「そうだね」
「寒いねっ!」
「そうだね」
カナはとってもはしゃいでいた。
灯りがほとんどない道。
信号がぽつぽつと光っていた。
羽犬塚駅からバスで40分ぐらい。
私達は星野村に辿り着いた。
「星が綺麗に見えるところはここを登っていくんだって」
私が指差す先には橋があって、その後に坂道が続いている。
とても急そうな道。
登るだけでとっても疲れそうだなって思った。
いつもはお父さんの車。
だからこうやってそこそこの距離を歩くのは私も初めてだった。
疲れすぎて天体観測どころじゃない!
ってならないといいんだけど……
「わたし、ずっとうつむいて歩こうって思うんだっ!」
「どうして?」
「星を見ないようにっ! 一番綺麗に見えるところで見たいからねっ!」
「良いポイントについたら教えるねっ!」
「うんっ! お願いっ!」
「うつむいて歩いてて転んだりしないでね。山道って危なそうだし」
言いつつもカナはきっと大丈夫だろうなって思う。
私がしたらきっとすぐに転んじゃうかもしれないけど。
「気をつけるっ! えっとライトつけたら安全だよね」
カナはそう言って懐中電灯を取り出す。
そしてつけようとしたから……
「ちょっと待って」
私は止めた。
そして赤いセロファンテープを出した。
「これで巻くからちょっと貸して」
「そういえば小説にも書いてたねっ!」
「うん」
カナから受け取った懐中電灯に赤いセロファンテープを巻いていく。
これで光も赤っぽい優しい色になる。
普通の懐中電灯だと明るすぎる。
だからあんまり暗さに目が慣れない。
光を優しくすることで暗さに目を慣らす。
っていうのが赤いセロファンテープの役割。
「はい」
「ありがとうっ!」
懐中電灯を渡したらカナはさっそく明かりを灯す。
明るいけど、眩しくない。
そんな光が地面を照らしている。
「本当だねっ! なんかいい感じになってるっ!」
「喜んでもらえて嬉しいな」
私も自分の懐中電灯に光を灯す。
私のはすでに赤いセロファンテープを巻いていた。
「行こう」
「うんっ!」
私とカナは橋の方へ向かって歩いた。
人が全くいない道。
寒いし、なんだか寂しくもある。
でもこんな雰囲気が私は好きだった。
「本当に田舎って感じがするね」
「そうだね」
「こんなに田舎の方って初めて来たっ!」
「コンビニが無いって大変そうだよね」
コンビニどころか周りのお店とかはもう閉まっている。
何か買おうと思ったら自動販売機しかないみたい。
「うーん。住むのは大変そうだよね」
「そのおかけで星が綺麗に見えるんだけどね」
コンビニの明かりなんて星の天敵。
便利なものだからっていいことしかないってわけじゃない。
「でも本当にこのバスで合ってるのって思っちゃったな」
「私も思ったかも」
「ずっと山道を走ってたらからねっ!」
「うん。降りそびれちゃったって思ったもん」
「いっちゃんも同じこと思ってたんだっ!」
「誰だって思うと思うな」
途中でずっと川と山しかない道が数キロぐらい続いた。
そういうところが続くとなんだかとんでもないところに迷い込んだような気分になる。
だからちょっと道が開けて家とかがぽつりぽつりとあった時は本気で安堵した。
「……なんか思ったより急な道だね」
私は道路を見上げて言う。
曲がりくねった上り道。
「あっ!」
ってカナは大きな声で言った。
「どうかしたの?」
「ここにショートカットみたいな道があるよ」
カナが照らす方には確かに道があった。
歩きじゃないと通れない、小さくて細い道。
「これを登ればちょっと楽そうだね」
「だねっ!」
それに車も通らないから安全そうって思った。
車はあんまり通らない。
でも自分だけ走ってるって感じで走行してる車がなんか危なそう。
私とカナは細い道を選んで歩いた。
曲がってないからその分距離も短い。
「いっちゃんってこういう道は大丈夫なの?」
「こういう道って?」
「暗い道」
「そりゃ平気だけど……」
なんでそんなこと聞くんだろうって思って私は思い出した。
「お化け屋敷が苦手なのは大きな音が出るからだよ」
「そういえばそんなこと言ってたね」
「こういう道も得意ってわけじゃないけど、苦手でもないかな」
「それは残念」
「残念?」
「あの時のいっちゃん、とっても可愛かったからねっ!」
「私としては恥ずかしいから忘れて欲しいんだけど……」
「一生の思い出だからっ! またお化け屋敷行こうねっ!」
「もう行かないからっ!」
コーヒーが苦手なのは克服したい。
でもお化け屋敷は克服しなくてもいいなって思った。
……
…………
………………
「疲れた……」
坂道を登って足がくたくたになっていた。
もうすごく登った気がする。
登ってきた道を見ると橋を渡る前に見た信号がとても小さく見える。
「もうすぐだよ。頑張ってっ!}
っていうカナは平気そう。
体力とかが違うんだなって思った。
「なんだかちょっと体が温まってきたね」
寒いのは寒いけど、なんだか汗をかきそうな気分。
「だね。山道を歩くのって疲れるよねっ!」
吐く息は白い。
気温はとっても低いんだろうって思う。
止まると一気に寒さを感じそう。
風邪をひかないように気をつけないとって思った。
「あっ! 旅館みたいなとこがあるよっ!」
カナが指差す。
そこには温泉とかそういう文字があった。
きっとお父さんとお母さんはここで温泉に入る予定なんだろうって思う。
駐車場にはまだ車はない。
時間的にはもうすぐ到着するはずなんだけど。
まぁ戻ってくる時には来てくれてるだろうって思った。
来てくれてなかったら凄く困るし。
「天体観測もいいけど温泉もいいよね」
「そうだねっ!」
カナは嬉しそうに言う。
「今日は時間的に厳しいかもだけど、今度は泊まりで来たいねっ!」
「そうだね。ゆっくりしたいしね」
天体観測合宿なんて楽しいに決まってる。
カナとは一緒に何度も何度も天体観測をしたい。
もちろん、カナがしたいって思ってくれるならだけど。
今日は天気もいい、湿度もいい、それに新月の日。
星を見るのにうってつけの日。
カナに素敵な星空を見せたい。
カナを感動させてあげたいって思った。
また天体観測に来たいって思ってくれるように。
「ねぇ……カナ」
だから私は言った。
「目をつぶってくれない?」
「目を?」
「うん。開けた瞬間、綺麗な星空を見せてあげるから」
「危なくないかな?」
「私が手を握って歩くから大丈夫」
「それなら安心だねっ!」
言いながらカナは目をつぶる。
私のことを信用してくれた。
きっと私もカナに言われたら同じようにする。
カナのことを信用してるから。
でも他の人に言われたら?
……それは分からないって思う。
「それじゃ……」
いつもはカナから手を握ってくれる。
でも今日は違う。
今日は私からカナの手を握る。
なんだかドキドキした。
カナも私の手を握る時にドキドキしてくれてるのかな?
そうだと嬉しいって思った。
「着いたら教えるから絶対に目を開けないでね」
「もちろんだよっ! なんだかドキドキするねっ!」
カナはにこにこって感じで微笑んでる。
カナはドキドキするって言う。
私もすごくドキドキしていた。
「いっちゃんとならどんなところにだって行くよっ!」
「そんな変なところに案内するつもりはないんだけどね……」
「でもわたしといっちゃんならどこへでも行けそうな気がするよねっ!」
「それはそうだね」
私はそう言って歩き出した。
カナが転んだりしないようにゆっくり歩く。
カナは目をつむりながらも、しっかりとした足取り。
その足取りは私のことを信頼してくれてる証明のようで、とても嬉しい気分になった。
……
…………
………………
「着いたよ」
私はカナに言う。
周りに明かりも何もない、空き地みたいなところ。
ここならとても綺麗な星空が見えるって確信できた。
頭の上にはカナに見せたいものがあるって分かった。
「いっちゃんもう星空見たの?」
「うんうん。見ないように気をつけてた。カナと同時に見たいって思って」
「嬉しいっ! じゃあじゃあっ! 同時に見ようねっ!」
「うんっ!」
私とカナは合わせてカウントダウンをした。
3…
2……
1…………
そして2人同時に空を見た。
「……」
「……」
時間が止まった気がした。
とっても綺麗でしょ。
そうだね。
来てよかった?
うんっ!
みたいな会話があるって思ってた。
でも違った。
私もカナも何も言えなかった。
夜空に広がる満点の星空。
青、白、赤……。
それぞれに光る星達が空に浮かんでいた。
1つ、1つは太陽とか月に比べたら全然小さな光。
でもその小さな光がたくさん集まって、こんな素敵な空を作っている。
私は何度も、何度もこの空を見た。
見るたびになんだか空に吸い込まれそうな感覚があった。
それぞれの小さな星達の引力に惹きつけられてる。
目を離したくない。
ずっとこの星空を見ていたい。
「……私ね……単純に綺麗なものが見れるって思ってた」
ぽつりってカナは言う。
小さな声だけどとてもはっきりと聞こえた。
この場所はとても静かで、今は2人だけの世界だから。
「でもなんか凄いっていうか、よく分からないね。なんて言ったらいいか……」
いつもはきはきってしてるカナには珍しい話し方。
でもそういう感じになる気持ちは凄くよく分かった。
言葉にはうまく表現できないものがこの世界にはあるって。
「分かる。私も同じ気持ちだからね」
澄んだ空気。
高い場所。
明かりのない地上。
いい天気。
月がない空。
それらが合わさらないと見えない星空。
街なかじゃ絶対に見えない景色。
人が多いところじゃ感じれない感動。
ぐすっ…… っていう音が聞こえた。
「ごめん。なんだか泣きそうだよ」
本当に泣きそうな声だった。
「なんでだろうね。星を見てるだけなのに……」
「星を見てるからだって思う」
世界は美しいって思う。
世界は素晴らしいって思う。
私は間違えてこの地球に生まれてきた。
でも私はこの地球が大好きだ。
地球から見えるこの星空が好き。
地球にあるたくさんの物語が好き。
コンビニとか学校とかも好き。
お父さん、お母さんも好き。
出会って別れるまで話してた友達達が好き。
あんまり話さないクラスメイトも好き。
漫画研究部の先輩も好き。
もも先輩の歌も好き。
一三屋先輩も好き。
ナツミのことも好き。
そして隣にいるカナのことも好き。
私にとって地球は好きで溢れている星だって気がついた。
今まではずっと怯えて暮らしてきたから気が付かなかった。
カナが勇気と安心をくれて気がつくことができた。
でもカナはこの世界が嫌いだ。
私が色々なものを怖いと思うのと同じぐらいに。
「故郷の星ってどこにあるんだろうね……」
星空を見ながらカナは言った。
「すごく、すごく遠くにあるよ」
夜空にある星達はすごく近くにあるように思える。
とても綺麗だからそんな風に錯覚してしまう。
でも実際はすごく遠くにある。
すごくって言葉を何回言っても足りないぐらいに、遠くにある。
「わたし達、ずっと地球で生きていかなくちゃいけないのかな?」
「……多分」
故郷から迎えに来てくれることはないって思う。
そして例え迎えに来てくれても私は迷ってしまうだろう。
春のころの私に即答できた質問も、今の私には難問になってしまった。
「わたし達、ずっとずっと地球に閉じ込められちゃうのかな?」
「……そうだね」
カナの言葉からは絶望的な何かを感じ取れてしまった。
カナにとってこの地球で生きていくことが苦痛なんだろうって思う。
「だからずっと一緒に生きていこう。この地球でもカナとなら大丈夫だって思う」
「いっちゃん……」
「私は秘密がばれるのが怖い、人混みが怖い、大きな音が怖い。私はとっても弱い」
声が夜空に吸い込まれていっているような気がした。
この夜空のどこかに私の本当の故郷がある。
私の本当のお父さんやお母さんもいる。
そしてきっと神様もいる。
でも私は隣にいるカナを信じたいって思った。
何よりもカナを信じたい。
カナと一緒にいたいって思った。
「だからずっとずっと一緒にいてね。何度も星空を見ようね」
「うんっ! ずっとずっといっちゃんはわたしが守ってあげるねっ!」
「ありがとう。そう言ってくれて嬉しい」
カナのおかげで私はこの地球を好きになることができた。
だから私もカナにこの地球を好きになって欲しいって思った。
次から2年生編です。




