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03

私は公園を歩いている。

ここが公園っ!

って思ってしまうぐらいに広くて綺麗。

鳩がたくさん飛んでいるのも見える。

隣接している野球場からは元気な声が聞こえる。

草野球をやっているみたいだ。


「いつまで寝てるのっ! もうすぐ入学式なんだからしゃきっとしなさいっ!」


お母さんからの、とてもありがたいお言葉。

引っ越してきて4日目。

部屋の片付けとか、持ってきたものの整理とかも終わった。

入学式までだらだらって感じで過ごそうと思っていた。

だけどお母さんに起こされて、私は公園までやってきた。

最初は面倒くさいって思ってたけど、でも来てみたらすごく心地良い。

都会な場所だからあんまり自然はなさそうだなーって思ってた。

けれどそうじゃないみたい。

いくら都会に住んでても、みんな自然的な物は欲しいんだろうなって思った。


「やっぱり地球もいい星だよね」


私は思わず的につぶやく。

青い空、緑色の木々、鳥の声。

とても穏やかな気持にしてくれる。

私は故郷の星に帰りたいって思っている。

でも、だからといって地球が嫌いなわけじゃない。

とてもいい星だって思う。

でも私の故郷の星の方が絶対にいい星だと思ってる。

なんだか難しいところ。


「そろそろ帰ろうかな」


30分ぐらい歩き回った。

公園にはたくさんの人がいる。

多いのは子供連れ。

ベンチに座ってサンドイッチを食べたり、バドミントンをして遊んでいる。

とても微笑ましい光景。

私はバドミントンをしている親子を見ながら、公園の出口へと向かった。

すると野球場のベンチで真剣な眼差しをしている女の子を見つけた。


「知り合いがいるのかな?」


草野球をしているのは30~40歳ぐらいの人達。

友達の応援ってわけじゃなさそう。

それに私が入学する高校の制服を着ているのが気になった。

たぶん、先輩。

その先輩っぽい人は


「がんばれーっ!」


みたいな大きな声を出して応援している。

言われているユニフォーム姿の人達もなんだか嬉しそう。


「んっ?」


そして女の人がこちらを見る。

あんまり私が見ていたから気になったのかもしれない。


「どうかしたの?」


女の人の声が聞こえる。

見つかってしまった!

って私は思った。

どうしよう!

とも思った。


「ちょっと待っててっ!」


よっ!って感じでベンチを飛び降りてこちらに向かってくる。

これが全く関係なさそうな人なら、ごめんなさいみたいに言ってすぐ離れるところ。

でも、同じ学校の先輩にそんなことをしたら、何だか入学後に目立ちそうだなって思った。

だからここは自然に会話し、離れるのがよさそうだと判断した。


「やっほー! こんにちはっ!」


「こ、こんにちは……」


今まで見たことないぐらいのフレンドリーな感じ。

とりあえずいい人そうなので安心した。

いきなりお金を要求されるってことはなさそう。


「野球好きなのっ!」


「へっ?」


思わず変な声が出てしまった。

予想外の質問をされたから……。


「いや……そういうわけじゃないです……」


「そうなんだねっ!」


質問を否定する返答だったけど、にっこりと微笑んでくれた。


「野球の試合を見てたから好きなんじゃないかって思ったんだ!」


「そうなんですね……」


あなたを見てました。

とはなんだか言いにくい……。


「じゃもしかしてあたしを見てたとかっ!」


思わずどきってした。

心の中を見透かされたような気がしたから。


「それは……その……」


だからしどろもどろになってしまった。

そんな様子がおかしいのか楽しそうな笑い声が聞こえる。


「あははははっ! そんなに緊張しなくていいのにっ! わたしはキミみたいな可愛い子に見られるのは嬉しいからっ!」


このままじゃ誤解されそうっ!


「えっと、私は今年から同じ高校に入学するから、それで制服着てるの見て気になったというか……」


「ふむふむ。なるほどねっ!」


分かってくれた!

なんだかとても嬉しい気分になった!


「あたしと同い年なんだねっ!」


「そうだんだねっ!」


同い年と聞いて自然と敬語が抜ける。

でも……


「えっっっ!」


「何を驚いた表情をしているのかなっ!」


「だってその格好……」


「これねっ!」


「制服を着てたから先輩かなーって思ってた」


「なるほどっ! 納得っ! でも着てくて着てるだけだよっ!」


「そうなんだね……」


入学前にうきうきして制服を着るのは分かる。

でもそれで外を出歩くのはなんか変だなって思った。


「あたしの名前はナツミっ!」


「なんだかそれっぽい名前だね」


なんだか南国がとっても似合いそうだなって思った。


「でしょでしょっ! とっても気に入ってるんだっ! でもあたしは冬生まれっ! 12月っ!」


「冬生まれなのにナツミなんだ……」


「あたしが生まれた時に夏の曲を聞いてたからなんだってっ!」


冬に子供が生まれる時に夏の曲を聞く?

だからナツミって名前をつける?

なんだか変なエピソード。

でも目の前のナツミさんを見ていると、納得できそうな感じもする。

多分、親子で似てるんだろうなって。

その場のノリで生きてそうな感が……。


「えっと! キミの名前を聞いてもいいかなっ!」


「私の名前はいつき。最近こっちに引っ越して来たんだ」


「そうなんだっ! 転校生ってやつだねっ!」


「入学一緒だから転校生じゃないかな」


……多分だけど。


「そういえばそっか! でもよろしくねっ! いつきさんっ!


「うん。こっちこそよろしく」


私達がそうやって挨拶した時にちょうど草野球の試合が終わった。

ちょっとだらけた感じで集まって礼をしている。

私は野球所を見ながら言った。


「そういえば知り合いでもいるの?」


「いないよっ!」


即答だった。


「えっと……じゃあ……」


少し考えてしまう私。


「誰も知ってる人がいない草野球の試合を見てたの?」


しかもとても大きな声で応援をしてたし……


「そうだよっ! あたしってスポーツはするのも見るのも好きなんだっ!」


「だからって草野球の試合は見ないでしょ……」


「普通の人はそうみたいっ! こんなに楽しいのにねっ!」


「ナツミさんは野球部なの?」


「うんうんっ! バスケットやってたから高校でもバスケット部に入ろうかなって思ってる!」


バスケット部。

なんだかそんな感じがする。

色が白いから室内系かなーとは思っていた。


「いつきさんは何か部活動するの?」


「私は……いいかな」


「えっっっ! もったいないっ!」


「あんまり運動とか得意じゃないしね」


「一緒にバスケ部入ろうよっ!」


「遠慮しとく」


同じ部活に入ってみんなで努力して夢を追う。

さすがに誰かとそこまで踏み込む気はなれない。

それに今まで転校、転校な人生だったから部活に入る気になれなかった。


「残念っ!」


にかっと微笑んでナツミさんは言った。

がっかりとかはしてないみたい。

そこらへんはざばさばっとしていて、付き合いやすそうではあった。


「もうこんな時間……」


時計を見ると帰る予定時刻を過ぎていた。

別に遅くなっても問題ないんだけど……


「じゃ私、帰るね」


これ以上いたら友達になりたいって思ってしまう。

だから私は帰ることにした。


「うんっ! 学校でよろしくねっ!」


言いながらナツミさんが手を振る。

とても明るい笑顔。

少し会話しただけでも人見知りしない、友達がたくさんいそうなタイプだって分かる。

だからこそ気をつけないといけない。

私の正体がバレるのは、きっとそういう人が最初だと思うから。


「同じクラスになるといいね」


なんて私は心にもない事を言う。

ナツミさんのことは多分、好きになる。

友達になったら、とても仲良くなりたいと思う。

だからこそ、最初から自然に距離を取れるといいなって思った。

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