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02

「いつき、もうすぐ着くわよ」


ぼんやりと外を見ている私にお母さんが言った。

声は助手席から聞こえる。

最初ははりきって運転していたけれど、途中で疲れてお父さんと交代した。


「だいぶ時間がかかったわね」


「そうだね」


実際、引越し前の家から車を走らせて6時間ほどが経過している。

車に乗るのは嫌いじゃないけど、さすがに退屈になってくる時間。

私は出そうなあくびをこらえながら窓の外を見る。

当然、窓の外にあるのは知らない景色。

これから私が住んでいく街。

でも私の家はもう少し時間がかかるみたい。


「本当に遠くまで来たんだね」


「こんなに遠い引っ越しは初めてだわ」


少しうきうきした感じでお母さんは言った。

お母さんはアクティブなタイプなので、引っ越しは苦にならないのかもしれない。


「すまんな」


運転席の方からの声。

お父さんが少し申し訳無さそうな声で言った。


「引っ越しばかりして……」


「うんうん、大丈夫」


大丈夫っていうか、もう慣れた。

お別れ会もそんなに悲しくないし、最初の挨拶だって恥ずかしくない。

何事も経験が大事だなって私は思う。

でもお父さんは転校ばかりの私を不憫に思っているようだ。


「今回が最後だ。もう転勤はない。絶対にな」


言い訳するような言葉遣い。

お父さんはとても優しい。

家でも優しいし、きっと会社でも優しいに違いない。

だから、こんなに転勤させられるんじゃないだろうかって疑ったこともある。


「いつきにはずっと同じ高校に通わせてやるぞ」


3年間、同じ高校に通う。

それが極普通の、当たり前のこと。

でもお父さんは決心を固めたみたいな言い方なのが、少し面白かった。

もしかしたら、首より引っ越しをしないことを優先させるつもりなのかもしれないけど……


「うん。期待してる」


変なことを考えつつも、私は努めて明るく返事をした。

引っ越し、転校が嫌なわけじゃない。

むしろ色々なところに行けるからお得感を感じたこともある。

引っ越しを嫌がるのは……

とても仲がいい友達がいる人。

新しい友だちを作るのが苦手な人。

のどちらかだって思うし、私はそのどちらにもあてはまらない。

新しい友だちを作るのは苦手じゃないし、別れるのが嫌になるほど仲がいい友達ができたことはない。

私は地球人じゃない。

だから私は必要以上に地球人と仲良くする気はなかった。

だってどんなに仲良くなったって、私の正体がばれたら裏切られるかもしれないし。

全面的に信頼してる人からそんな仕打ちを受けたら、絶対に立ち直れない自信がある。

だから、本当に仲良くなる手前でセーブするのが私のやり方。

それが気に食わない!っていう人も中にはいた。

でも大多数の人からはそこそこ仲がいいクラスメイトとして受け入れられている。

一緒にいれば話をする。

でもSMSや電話で長くやり取りを続けたりはしない。

朝の教室でおはよう、夕方の教室でばいばいと挨拶ぐらいは返し合う。

でも一緒に帰ろうとは言い合わないぐらいの仲。

みんなとその距離感でいるのが一番、心地いい。

たくさん仲がいい友達が欲しい!

っていう人もいるし、それはそれで素晴らしいって思う。

でも私がそんな考えになるはずがない。

たくさんの地球人と出会ったら正体がばれた時にそれだけ危険になる。

多分、地球にいる限り親友は、私にとって空想上の存在に近い。


「でも引っ越しがちょうど入学の時でよかったわね」


母親の言葉。

なんで入学の時がいいのか分からなかった。

でも少し考えて確かにそうだなって思った。


「転校生じゃないからね」


私はお母さんに返事をする。

引っ越しも、転校も嫌いじゃない。

でもやっぱり少し目立ってしまうのが難点ではあった。

でも今回は違う。

みんな似たようなスタートラインから始まる。

1人目立つことも、1人だけ自己紹介をさせられることも、休み時間の質問タイムもない。

みんなと一緒に自己紹介をして、ただ自然に溶け込めばいい。

うん、転校と違ってとっても楽だ。

そのことに気がついて、なんだか私はほっとした、気が抜けた気分になった。


「たくさんの友達ができるといいな」


そう言ったのはお父さん。

引っ越すたびに言う、口癖のようなもの。


「そうね。お父さんも、もう引っ越しはないって言ってるし、一生付き合える友達ができるといいわね」


「そうだね」


なんて心にもないことを私は言う。

一生付き合える友達なんて、できそうもないって思う、

万一、故郷に帰れたならできるかもしれないけど……


「多分、素敵な人に出会えると思う」


ちょっと冗談めかして私は言った。

素敵な人はいるかもしれない。

でも私には縁はないって思う。

それから私達3人は特に盛り上がるわけでもない、なんてことはない話をした。

いわゆる雑談というもの。

そういう風に話をする私達は、きっと仲がいい家族の分類に入るのだろうと思う。

反抗期だってなかった。

お父さんのと一緒に下着とかを洗濯されるのを嫌がる意味が分からなかった。

お父さん、お母さんにどこかにお出かけしようって言われたら喜んで行く。

好きか、嫌いかと言われたら、好きだって言える。

だけれど、本当の親子じゃない。

2人とも地球人。

私とは違う存在。

私とお父さん、お母さんの間には超えられない、見えない壁が確かに存在している。

でもこの地球では親子ということになっている。

なんだか不思議な感じ。

もし私が地球人じゃないことを知ったら二人はどうするんだろう……

さすがにお父さん、お母さんが私を殺そうとする、なんてことはできるだけ想像したくない。

きっと私が地球人じゃなくても守ってくれる。

そう信じたいけど、難しいことだった。

……うんうん。

私は頭のなかで自分の考えを消す。

跡も残らないぐらい、念入りに。

だって考えてもただ気分が悪くなることだから。

だって考えても仕方がないことだから。

私は気を取り直してお父さんとお母さんに言った。


「お腹すいたから新しいうちに行く前に何か食べに行かない?」

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