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05

ある日の出来事。


お昼休みの図書室。

たまこと並んでカウンターのとこに座ってる。

じゃんけんで勝てて念願のクラス定員2人の図書委員になることができた。

じゃんけんで負けたアイコは美化委員。

自分が出したちょきを恨めしそうに見てたのを覚えてる。


「もうすぐゴールデンウィークですね」


「そうだね」


たまこの声に私はうなずいた。

あんまり大きな声を出せない場所。

だからお喋りも自然と小さな声になる。


「何だかもう5月なんだねって思います」


「うん。凄く分かる」


もうすぐ5月。

3年生になって1ヶ月ぐらいが経過してる。

あと高校生活も11ヶ月。

と考えると長そうで……やっぱり短いよねって思う。


「いっくんは3年生になってどうですか」


「そうだね……」


って私は考える。

3年生になって変わったことがいくつかある。

1番大きいのは部活に後輩ができたこと。

千歳さんと奈央ちゃんは毎日じゃないけど来てくれる。

景子ちゃんは毎日来てくれてる。

それぞれでお喋りをしたり。

私達とお喋りをしたり。

千歳さんは小説を書いて、奈央ちゃんはプラネタリウムを作ったり。

後輩がいるだけで何だか雰囲気とか気持ちが全然違うって思った。

何だかだらっとできないって気持ちになる。


「分かりますっ!」


そんなことを言うとアイコも同意してくれた。

料理部も4人、新入部員が来てくれたみたい。

嬉しそうにしてるたまこを見て私も嬉しい気分になった。


「もうたまこが1番年上だから頑張らないとですっ!」


「料理部は大変だもんね」


「大変なのはどこの部活も同じですよっ!」


大変なのは。頑張ってるのは。

みんな同じかもしれない。

でも料理部ほど学校に貢献してる部活ってないよねって思う。


「今度の夏休みも合宿の料理作るの?」


「もちろんですっ!」


張り切った声。

図書室だから静かに言ってるけど。

でも気合が十分に伝わってくる。


「でも受験勉強とか大変じゃない?」


週3日ぐらいで塾に行ってる。

夏休みとか秋ぐらいからはもう少し増やしたいとも思ってる。


「たまこは調理師免許を取りたいから専門学校に行くんですっ!」


「専門学校なんだね」


「はいっ! だからあんまり受験勉強はしなくていいんです」


「それはいいね」


「でも料理をお仕事にするには体力をつけないとですっ!」


「大変そうだもんね」


「だからナツミさんに教えてもらって体力作りのメニューを作ってもらったんですっ!」


「きつくない?」


「きついけど頑張れる内容なんですっ!」


「走ったりするの?」


「はいっ! ナツミさんと一緒に走ってますっ!」


同じクラスになったおかげかな?

前よりナツミとたまこは仲良くなってる気がする。


「あ……本を持って来てる人が」


「本当ですね」


1年生かな?

ライトノベルっぽい本を持ってカウンターに来てる。

私達はお喋りをやめた。

さっきは私が対応したから。

次はたまこの番。


「えっと……期限は1週間までです。それ以上借りたい場合は……受付をお願いします」


たどたどしいたまこの声。

貸出の手続きををして本を渡す。

最初は緊張して本を落しちゃったこともあった。

でも今はそれなりに様になってるって思う。


「慣れてきた?」


本を借りた人が離れてから私は言った。


「まだ何だか緊張しますねっ!」


ってたまこは言う。

たまこも図書委員。

最初の委員会で見たときは凄く嬉しい気分になった。

そして同じ曜日に受付係になった。


「色々な人が来るからね」


「ですねっ! でも同じクラスの人の方が緊張します……」


「そうかな?」


私は知らない人の方が緊張するって思う。

同じクラスの人だと……それも亜里沙みたいなのだと緩くなりすぎるって思う。

まぁ亜里沙が図書室に来ることはあんまりないけど。


「そういえばこの前、いっくんにおすすめしてもらった本読みました」


「どうだった?」


「すっごく面白かったですっ!」


って感じで私達はまた静かなお喋りを再開した。

2人とも本を読んでることも多い。

今日は何だかお喋りをする日。

たまことはクラスが別になって寂しいなって思ったけど。

またこんなところで一緒になれたのは凄く嬉しかった。


……

…………

………………


ある日の出来事。


アイコとトイレに行った帰り。

廊下を歩くカナを見つけた。

声をかけようとしたけど……。


「誰かと話してるみたいだわ」


ってアイコが言った。

カナの隣には私が知らない人がいた。

廊下を歩きながら話をしてる。

それは何だか凄く仲良さそうで。

見ていて微笑ましい感じがした。


「あれが一緒にお弁当を食べてるって人?」


「そうかもね」


今まではずっとカナとお弁当を食べてた。

でも今年は少し違う。

カナが委員会で忙しいし。

私も図書当番もあるし。

それにカナがクラスメイトとお弁当を食べる日があるから。

カナがクラスメイトに誘われたって話をした。

どうしようか迷ってるみたいだったから。

一緒に食べた方がいいよって私は言った。

でも毎日だと寂しいなってお願いもした。


「カナがいっき以外の人といるのは何だか変な感じがするわ」


「そうかな」


「まぁカナは割と人間関係も器用にこなすから」


「アイコは相変わらず苦手だよね」


クラスでだって私以外とは話そうとしない。

私がいなかったら……って思うとちょっと心配。


「苦手じゃないわ。必要ないだけよ」


そう言うけれども。

必要ないわけがないっていうのは分かってるはず。


「そんなんで漫画家になれるの?」


「確かに漫画家もコミュニケーション能力は必要だわ」


「だよね」


アイコが読んでた本にも書いてあった。


「だから前よりは他人と話そうと努力はしてるわ」


「そうなんだ」


全然そんな風には見えなかった。


「天文部の1年とも話をしてるじゃない」


「それはそうだね」


アイコはたまに部室に来る。

天文部なんだから当たり前だけど。

その時に千歳さんとよく話をしてる気がする。

奈央ちゃんともたまに。

でも……


「景子ちゃん、アイコのこと怖いって言ってたよ」


「……ああいうタイプとは上手く話せそうにないわ」


それは何だか分かる気がする。

アイコはせっかちだからね。


「たまこともあまり話さないもんね」


カナとは最初からよく話す。

ナツミとはお泊り会からよく話すようになった。

でもたまことは……。

全く話さないわけじゃないけど少しぎこちない感じ。

2人とも頑張ってるって思うんだけど。

でもお互いに頑張ってるのが分かるのが駄目なんだって思う。

凄く難しいところではあるんだけど。


「いっきは割と誰とでも話せるわよね」


「そうだね」


「宇宙人なのに」


「宇宙人だからだよ」


「意味が分からないわ」


「うん。私も」


本当は転校が多かったからだって思う。

そんな風に話しながらのんびりと教室へ戻る。

カナとカナの友達はもう姿が見えなくなってる。

私達のことは気が付かなかったみたい。


「急がないともうすぐ時間よ」


「そうだね」


カナがお弁当を食べる人ができたのは嬉しい。

でもやっぱりいつも一緒に食べたい。

贅沢な悩みだし、我儘だなって自分でも思った。


……

…………

………………


ある日の出来事。


お昼休みの時間。

部室の中。

今日はみんなでご飯を食べてる。

みんなは2月のお泊まり会メンバーのこと。

今もみんな部室に遊びに来てくれてる。

3年生になってみんなが集まることは減った。

だから今日みたいな日はとっても嬉しい。

私はお弁当を食べ終えて片付けていた。

カナは購買で買ったパンを食べてる。

アイコはお腹空いてないって何も食べない。

たまことナツミはお弁当を食べてる。

いつもナツミは早く食べ終わる。

けど今日はそうじゃないみたい。


「そういえば」


って言ったのはアイコ。


「なんでカナは風紀委員に入ったの?」


それは私も気になってるところだった。

風紀委員は大変だしみんなに嫌われるしで1番不人気な委員会。

実際、カナは委員会のお仕事で昼休みとか放課後にいないことが多い。


「自分から入ったわけじゃなさそうだけど」


「それは……あんまり言いたくないんだけど……」


カナが言葉を濁すように言う。

理由を言いたくないっていうのも不思議だなって思う。


「言いたくないなら別にいいんだけど」


「でもカナさんって風紀員っぽいよねっ!」


ナツミが言う。

お弁当を食べる手が完全に止まってる。

お腹が空いてないのかな?


「分かりますっ! しっかりしててびしっとしててっ!」


「そう? どっちかというと風紀を乱す側に思えるけど」


「私は……」


考えたけど難しい気がした。

似合ってるとも思う。

似合ってないとも思う。

何だか不思議な感じがした。


「でも本当に大変そうだよね」


答えにくかったから話題を変える。


「朝の挨拶運動とかも生徒会の人とやってるしね」


朝の挨拶運動。

生徒会と風紀委員がグラウンドでみんなに挨拶をする。

ちゃんと挨拶を返さなかったら怒られる。


「あーあれね」


不機嫌そうな表情になるアイコ。

アイコはああいうの嫌いそうだもんね。


「本当に馬鹿馬鹿しいと思わ」


「えー。そうかなっ! 挨拶するって気持ちいでしょっ!」


「挨拶を気持ちいだなんて思ったこともないわ」


「たまこも知らない人に挨拶するの苦手だから……」


「私も大きな声って好きじゃないかな」


「わたしも正直言ってサボりたい……」


「えっ! みんなそんな感じなのっ!」


ってナツミは驚く。

むしろ私達をどんな感じに思ってたんだろう。

どう見てもナツミ以外は挨拶とか苦手だっり嫌いだったりって思う。


「いっちゃんにも迷惑をかけてるしね」


「迷惑じゃないよ」


「迷惑って何よ」


「いっちゃんに早起きさせてるの」


「いっくんも早く学校に来てるんですねっ!」


「うん」


朝の挨拶運動にでる人は早く学校に行かなくちゃいけない。

私もカナに合わせて早く登校してる。

いつもより1時間ぐらい早く起きなくちゃいけないのは辛いって思う。

でも……。

誰もいない教室っていうのも何だか静かで落ち着く。

教室から挨拶をしてるカナ達を見るのは何だか楽しい。

たまに朝練をしてる美香と話をしたりもする。

あと眠いときは寝たりもする。


「けど慣れると早く学校に来るのもいいって思うようになるよ」


「アタシはずっと寝ていたいわ」


「バスケ部もずっと朝練してるよね」


「うん。本当は昼休みも練習したいんだけどね」


「凄いですっ!」


「どれだけ動き回りたいのよ」


「もうすぐ大会だからね」


ってカナが言った。

前にナツミとそんな話をしたのかもしれない。


「うん。6月の初めにあるんだ」


「それが最後の大会?」


「そうなるね」


「負けたら終わりなのよね」


「うん。負けたらそこで部活は引退」


「残酷だよね」


つぶやくようにカナは言う。


「優勝チーム以外は負けて部活が終わるだなんて」


「アタシは運動部に入ったことないからその感覚が分からないわ」


「たまこもです……」


「私も」


「わたしも部活は天文部だけだしね」


「もしかして運動部に入ったことがあるのってアタシだけっ!」


もしかしなくてもそうみたい。

珍しいこともあるんだなって思う。


「見事にインドア派が集まってるよねっ!」


「何だかナツミが輝いて見える」


「ナツミさんっ! 格好いいですっ!」


「さすがリア充は違うわ」


「リア充じゃないけど……」


はぁってナツミがため息をつく。

さっきから全然お弁当が減ってない。


「でもここは何だか気が休まっていいよね」


「ぬるいからね。ここは」


「天文部だしね」


ピリピリした天文部って凄く怖そうだなって思う。


「バスケ部は明日からのゴールデンウィークもずっと練習?」


「そのつもりっ!」


「休みないの?」


せっかくのゴールデンウィークなのに。

私も学校にくる予定ではあるんだけど……。


「次の大会が本当に最後だから悔いを残したくないんだっ!」


「気合が入ってるわね」


「勿論だよっ!」


「料理部で何か作って差し入れしますねっ!」


「ありがとうっ! たまこちゃんっ! 大好きっ!」


「……あんまり無理はしないでね」


そう言ったのはカナ。

ナツミはほっておくとどこまでも頑張りそう。


「そうよ。また膝を壊したりしたら……」


アイコの言葉で。

私はナツミから聞いた話を思い出す。

アイコもきっと思い出したんだろうって思う。


「毎週病院にも行ってるから大丈夫だってっ!」


「それって大丈夫なの?」


病院に行ってる。

何だか悪い予感しかない響き。


「検査だけだからね。むしろ大丈夫っていうお墨付きをもらいにいってるんだ」


その言葉を聞いて私は安心した。

病院が大丈夫って言ってるなら大丈夫だよね。

でも……それよりも……。


「今年は絶対に全国大会に行くって決めてるんだっ!」


ナツミは気合を入れるように言う。

全国大会。

きっと夢物語じゃないぐらいに頑張ってるんだって思う。

ナツミならきっとやれるって思う。

だけど……。

少しだけ食べて減ってないナツミのお弁当が凄く気になってしまった。

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