プリンセス・イア 下
背後に立っている大きな看守の男。
イアは、恐怖で動けなくなってしまいました。
しかし、その大男はすぐさま跪きました。
「お待ちしておりました、姫様。メリーシア殿から話は聞いております。こちらへ。」
どこまでも気の利くメリーシアに再び、心から感謝しました。
そして、マークスの牢屋の前に到着しました。
マークスはスヤスヤ寝ています。
小声で呼びかけるとすぐに目を覚ましました。
マークスは、夢を見ているかのように驚いています。
イアは、人差し指を唇に当てて静かにするよう伝えました。
「久しぶり、可愛い寝顔ね。とっても会いたかったわ。」
するとマークスは照れ臭そうに頬を掻くと、
「僕もだよ。でも、あんな最期の別れ見たいな台詞を吐いた後だから少し恥ずかしいな。」
2人は、扉の隙間越しに手を握ると夜が明けるまで他愛もない話をしました。
最後にイアはこう伝えました。
「必ず助けるわ。それまで毎晩、あなたに会いに来ます。好きよ、マークス。」
そして、照れ隠しのために走って自室まで戻りました。
それは、翌日、またマークスに会いに行った際に起こりました。
2人が仲睦まじく話していると、外から何やら歌が聞こえます。
イアは近くの窓から外を見下ろしました。
そこで見たのはたくさんの王国民が暴動を起こしている様でした。
国民は次々に叫んでいます。
「マークスがそんな事をする訳ない。」
「あの優しいお姫様が泣いておられたそうだ。」
「もう一度、裁判を。」
イアは、マークスの牢屋へ戻りました。
マークスは、イアの顔を見ると笑顔で頷きました。
マークスも民衆の声を聞いていたようです。
イアは、再び泣きました。
今度は正真正銘の嬉し涙でした。
そんな幸せなことも束の間に、裁判から6日目の朝、イアは最悪の知らせを受けました。
死刑の執行を1週間早めるとのことでした。
王国民の暴動を抑えられないと考えたカエシムは、原因であるマークスを殺してしまえば収まると考えたのです。
執行まで1週間近く残っていたはずがもう1日もありません。
それに加え、イアが夜な夜なマークスと会っていたという情報がカエシムに伝わってしまったために、マークスの牢屋は別の場所に移されてしまいました。
今からその居場所を調べる時間はありません。
絶体絶命とはこの事でしょうか。
しかし、諦めるわけには決していきません。
「もう、こうなったらマークスの無実を証明する他ないわ。」
奮起し、行動しようとしたその時でした。
どういう訳か、視界が霞みます。
そしてイアは、突然、倒れてしまったのです。
何故なら、イアは寝ていませんでした。
日中は公務に追われ、夜になればマークスに会いに行く。
そして朝まで2人で語らい、再び公務に着く。
そんな生活が数日の間、続いたために体力も精神力もとっくのとうに限界を迎えていました。
そして、処刑日前日に関わらずイアは、深い眠りに着いてしまったのでした。
ハッとイアは、飛び起きました。
気がつけば辺りは暗くなっています。
「お目覚めになられましたか。」
そこには、汗だくになったメリーシアが立っていました。
時計の針は12時を回っています。
「どうして起こしてくれなかったの。」
焦るイアは、罪の無いメリーシアを怒鳴ってしまいました。
「申し訳ございません。今の今まで、マークス様の牢屋の場所を探しておりました。」
メリーシアは、イアに使える女達を総動員して牢屋の場所を探し当てたのでした。
イアは、メリーシアにきつく当たってしまったことと、お礼を言って、静まり返る城内を駆けていくのでした。