プリンセス・イア 上
昔々、とある小さな王国に「イア」というお姫様がいました。
元気で優しく、それはそれは美しいその娘は国民からとても愛されていました。
しかし、その王国には大きな問題がありました。
母親である女王は、イアを産んで間も無く亡くなり、国王である父はイアが15の頃流行り病に罹り、治ったは良いものの、後遺症から寝たきりの生活が続いていました。
幼いイアに政治を任せることはできないため、王国随一の有力な貴族である「カエシム」が国王に代わり政治を行っていました。
ある時、国に長く強い雨が降り続いた事がありました。
川は氾濫し、城下町の一部が洪水で浸水、あまりに強い雨風にさらされた多くの建物が倒壊してしまいました。
復興作業は難航しました。
そんな最中、城内にある噂が流れ始めました。
それは、若い大工の棟梁である「マークス」という男が堤防を作り洪水を収め、街の建物を凄まじい速さで再建しているというものでした。
まるで救世主のようなマークスは、国民から大きな支持を得ました。
それを聞いて焦り始めたのは、国を好きに操っていた貴族のカエシムでした。
自分以外に大きな支持を持つマークスが彼にとって邪魔になると、そう考えたからです。
そこでカエシムは、イアにこう頼みました。
「大工の棟梁、マークスを城へ呼び、あまり図に乗るなと釘を刺してはいただけませぬか。」
と。
この頃、カエシムのあまりに大きい権力にイアは只々、言いなりにならざる終えませんでした。
とうとうマークスがお城へやってきました。
その時、面会の部屋にいたイアやカエシム含む貴族たち、そして、マークス本人でさえもこの日、何故マークスがお城に呼び出されたかを理解していました。
部屋にマークスが通されます。
ここで誰もがイアがマークスを咎めるのだと思いました。
しかし、イアから発されたその言葉に会場がどよめきました。
「マークス。王国の為に尽くしてくれてありがとう。あなたのおかげでこれからも私達はこの国で生きて行けます。」
席を立ち、マークスの手を握りながらこう言ったのでした。
そして、誰よりこの発言に驚いたのは、やはり、カエシムでした。
このイアの言葉はカエシムに対する戦線布告と受け取られてもおかしくなかったからです。
イアの王族としての精一杯の反抗でした。
マークスはこう返します。
「有難きお言葉にございます。内心、姫様に叱られるのではとヒヤヒヤしておりました。」
そんなマークスの笑顔と冗談に緊張感のあった場が和みました。
そんな中、カエシムだけは笑ってはいませんでした。
その後、お食事会が開かれ、その後の王国の復興の方針などが話されました。
そこでイアは、マークスととても仲良くなりました。
マークスがお城に来た1週間後、イアはいつも通りの公務に追われていました。
しかし、どうしても仕事に集中できません。
何故なら、イアはマークスと出会った翌日に、マークス宛に手紙を書いていました。
なのに、1週間ほど経っても返事がこないのです。
「嫌われるような事はしていないはずなのだけど。」
そんな不安が口からこぼれたその時でした。
召使いで歳も近く、1番の仲良しだった「メリーシア」が顔を青くして部屋に駆け込んで来ました。
メリーシアが伝えてくれた内容にイアは驚きとより大きな不安に襲われました。
それは、マークスが王国反逆の罪で牢に囚われたというものでした。