第一節 始まりはどんぞこから①
眩い光が眼前を目まぐるしく過ぎ去っていく。重力の感覚が麻痺する。落ちているのか流れているのか、自分がどこかへ移動しているという実感が目の前のたなびく閃光以外に知覚できない。ひどく不安定な気分になる。
「おいビキニ、これっていわゆる召喚中の移動なのか!?」
「そうだ!あと数分もしない内に出口につく!」
「え?この無重力感あと数分も我慢すんの!?俺少し酔ってきたんだけど……」
「まぁ落ち着くがいい。ここは世界の狭間、何人も手が出ぬ安全地帯だ。着くまでせめて体を休めておけ」
「さも出てからは危険しかないみたいな言い方するな……」
心の準備をする気力が削がれていく……
「ふふ、安心しろイチロー。出口となる我らが秘密基地はまだ戦火の影響を受けておらぬ平和な田舎村だ。魔獣も週に二回しか出現しないぞ」
「嘘だろ、俺魔獣とか相手にすんの?」
ナチュラルに生き延びる難易度が上がっていく会話に一狼は戦慄を覚えた。
煌めく世界にふと目をやりながら、一狼は口を開く。
「なぁビキニ、あっち出る前にいくつか聞いておきたいんだが……」
「ふむ、なんでも聞いてくれ。あちらの知識から私のスリーサイズまで、あらゆる情報を包み隠さず答えよう!」
「じゃあ……」
「と言っても、こんな貧相な肉付きでは殿方のお眼鏡にはかなわないな。ハハ、こりゃ失敬……」
「あ~もう!だから反応に困る返しはやめろって!」
あれか?あっちの世界の人間は下ネタと自虐ネタが鉄板なのか!?
その時一狼の脳内に電撃が走った。これ、ラノベとかでよくあるやつじゃない?と。
(よっしゃ!思わず素で返しちまったが、こういうときはなんて返すのがベストだ!?)
脳内をフル回転させる。これまで見てきた作品の胸キュンシーンをピックアップし、最適解を導きだす。
そう、こういうときは……
『ハハハ、その未発達な体型もじゅうぶんラブリーで俺の守備範囲内だぜ?』
からの平手打ちくらう王道パターン!変態紳士を華麗に演じてこその主人公属性なり!
そう息巻いて返そうとした矢先である。
「だが乳房の色つやは貴族の箱入り娘にも負けぬ自負があるぞ!」
だめだ。俺の返せる範疇を遥かに超越した下ネタ力を相手は持ってやがる。
「などと言ってる間にもう出口だ」
眼前に光の集束するポイントが現れだす。流れ出る光がその一点へ集束するのにあわせ、自分の体もそこへ流されていく。
「結局何も聞けなかった……」
「人生などそんなもんさ。ままならぬことの連続さ」
まだあってそう時間もたってないが、本気でこの娘の精神年齢に疑問を抱き始めてきた。貫禄がとてつもないぞこの微幼女。
光の収束点に流れ着いた瞬間、また目を塞ぐ強烈な光のカーテンが周囲を取り囲んだ。
視界が開く。空気が入れ替わる。光の帳が閉じるのと同時に、新たな世界が展開するのがわかった。
光に眩んだ目が徐々になれ、初めて見た異世界の景色は……
「な…んだよ……これ……?」
森が燃え上がり家屋の焼ける爛々とした赤と、地面を染め上げる血の朱色に塗りつぶされていた。