(9)助言。
「まあ、取りあえず今どんなスキル取ってるか教えろ」
「えっと【手技】【脚技】【軽装】【SPD強化・微】【調合】【採手】は既に取ってて残り1枠」
僕のスキル構成を3人は特に気にした様子を見せなかったけど、ソルトちゃんだけは一瞬目を丸くした後、何やら考え始めた。
「なら魔法系かな? 物理が効きにくい敵もいるし1属性ぐらい取っといた方がいいと思うよ?」
アルスの提案にソルトちゃんが首を縦に振る。ソルトちゃん的にありという事かな。
「でも魔法だよね? 呪文唱えるだけでいいんでしょ? 折角のVRなのに勿体なくない?」
「いや、そう考えるのはお兄ちゃんだけだよ?」
そうかな。折角なら体を動かしたいって思うのは普通だと思うけど。
「【魔撃】なんでどうだ? MPを消費して武器に魔力を纏わせるスキル。確か拳とかでも問題ないはずだ。MP余らすよりかはいいだろ」
僕が乗り気じゃないのを見て出してきたナイトの提案してくれる。ソルトちゃんは少し首を傾げているけど、僕的にはありだと思う。
「あっ、それいいね。それにしよう」
ナイトのお薦めに従い、【魔撃】を探す。おっ、あったあった。
「ちなみにAPを消費して魔法に物理ダメージを付与する【練気】と言うのもあるが、まあ、アルスちゃんみたいな魔法特化じゃないと意味ないな」
よし、取得っと。
にしてもアルスは魔法特化なのか。僕と真逆だね。
スキルが全部決まりほくほく顔の僕に、チィサちゃんがおそるおそる尋ねてきた。
「あ、あの、少し気になってたのですけど……、さっきトルテさんってスキル6つしか言ってないですよね。【魔撃】入れても7個。残り3個はもしかして?」
あっ、そういや言ってなかったね。
「ん。種族特定の初期スキルだから飛ばしたんだけど言った方がよかった?」
辺りに広がる謎の沈黙。
3人は何かに思い至ったのか絶句した様子で、ソルトちゃんは何やら申し訳なさそうな表情で。僕だけ1人どうしたのか訳も分からず困惑している。
「ま、待て。おまえの種族は人間だろ? 人間は初期スキルなし、つまりスキル選択の自由度が高いのが売りだ。なのに初期スキルが3個って……」
「妖精しかいないよね?」
慌てて問いつめてくるナイトに、それに続いて俺の種族を予想するアルス。
あっ、そういや種族も言ってなかったな。
でも、普通見て分かるよね? サイズとか全然って、ヒュムリンク装備したままだったか。
その事に思い至り、その場で指輪を外して見せた。すると身体は縮み、ヘソぐらいの高さ、チィサちゃんにすればちょうど目の前に妖精の俺様が現れる。
「……妖精?」
「おっす、おら妖精。名前はトルテっていうんだ。よろしくな」
改めて某バトルマンガの主人公みたく自己紹介をしてみる。
それを聞いたチィサちゃんがその場で崩れ落ち、つぶやくように言った言葉が聞こえてきた。
「やっと健也さんより小さくなれたと思ってたのに……」
あぁ、ごめん。だからホビットだったのか。えっと、なんかごめん。
崩れ落ちたチィサちゃんになにも言えなくなる僕。
うん。ホントごめん。
で、そんな僕を放っておかない奴らがいた。ナイトとアルスだ。
「お、おい。妖精なら妖精って言えっ。さっきのスキル構成がまるっきり地雷じゃないか!」
「えっ、そうなの?」
「そうなの?じゃないよ、お兄ちゃん。考えたら分かるって」
どう言うことか分からず首をひねる。
地雷ってのは確かこれを取ったら負けっていうスキルだったよね。
【手技】も【脚技】も格闘系なら普通だし、【軽装】はソルトちゃんお薦めだ。アイテムの採取率がアップすると思われる【採手】だって取って損じゃないスキルの筈だし。
「簡単に言うと格闘というか接近戦と妖精の相性が最悪なの」
「えっ?」
「まずステータスの面で言うと力と丈夫さが全基本種族中最弱と言い切れるほど低いから近接攻撃は不向きだ。HPもその2つに依存してる部分が多いから余計にな」
「おおう」
「さらにサイズの問題。お兄ちゃんの今の標準サイズだと圧倒的にリーチが短いから人より奥に踏み込まないと行けない。つまり危険。武器を使わない【手技】で戦うなら特にね」
「ちなみにリーチはさっき付けてたアクセサリでどうにかできるかも知れないが、代わりにアクセサリ枠が1個潰れる。今はともかく敵が強くなってくるとこの1枠が重要になってくるな」
なるほど確かに接近戦に向かない種族ってことが理解できる。でもせっかく作ったアバターだしね。
「ど、どうして妖精にしちゃったんですかっ!?」
敢えて言おう。【採手】は誤字じゃないと。