(24)対コザ。
遅くなりました。いつもより少し長めの約3000文字となっているのでそれでご勘弁を。
コザと対峙して数秒、僕とコザの間に動きはない。
僕が動かない理由はコザの出方の窺っているから。だけど、コザの方はどうなんだろう。僕のことを見下している風だったから出方を窺っているのとは違う気がする。
……もしかして僕が魔法を使う隙をねらっている?
確かに魔法を使うなら少なからず集中する必要があるし、その瞬間が格好の狙い目と言えば狙い目だろう。
でもさ、
「待ってても僕は魔法なんか使えないよ」
そう素直に教えてみたけど、どうやら信じて貰えてないみたいだ。
「へっ、そんな見え見えの嘘に引っかかるバカなんていねぇよ。妖精ってのは魔法か弓を使ってなんぼの種族だぜ? なのに弓も装備せず魔法も使わない? そんな妖精いるはずねえだろっ」
いや、ここにいるんだけど。あっ、バカの方じゃなくて弓も魔法も使わない妖精って方ね。
にしても、さっきの発言って偏見というか種族差別だよね。ちょっと、むかっとしたかな。
だから少しだけ作戦変更。ちょっとだけ挑発して回避の訓練にしようかと思ってたけど、全力でおちょくってあげよう。
「じゃあ、仕方ないね」
僕はそう呟いて拳を握りしめると、別のゲームで知った無拍子という技をイメージして急速にコザに近づく。そして腹に体当たりをしようとした瞬間にある事に気づき急ブレーキ。少し間を取り両手を合わせた。
「【採手:SPD】」
折角だし使っておかないと勿体ないもんね。薄緑に光る手の甲に20の文字。ちなみに受付用番号は既に消えている。
「いくよ」
声を上げ、再度コザの方へ突撃する。2度目のモーション、かつテレフォンパンチと言うこともあり、1回目に狙った腹を押さえて防御。
でも甘い。誰が同じ攻撃を繰り返すと言った? いや誰も言ってない。
と言うことで僕は軌道を下にずらし、鳩尾の下にある男性特有の弱点にダイブ……しないよ?
だって、僕も男だからあの痛さは分かるし、何よりアソコに全身突撃とかしたくないし。だから金的狙いはフェイントに留めて、激痛を覚悟したコザの腹の直前で急停止し、ぺちぺちぺちと腕に3回ほど触ってやる。
「へ?」
予想した衝撃が来ず混乱している内に更に数回タッチを繰り返す。
「ふ、ふざけんじゃねぇ!!」
コザが正気に戻った時には、採手のカウントは10になっていた。
払うように腹と股間から退かした手を避けるため、僕も少し離れる。
「妖精のパンチなんか痛くも痒くもねぇんだよっ」
まあ採手で攻撃力下がっているっぽいし、そもそもさっきのは触っただけでパンチですらないし。
「ザコがいっちょ前に手加減してんじゃねぇ。さっさと魔法だしやがれ」
「だから魔法は使えないって言ってるよね? つか、本気出していいの? さっきの全力で狙うよ?」
どこをとは敢えて言わない。ただ視線で示すのみ。
「そ、そこだけは勘弁してください。マジで」
素直でよろしい。って、まあ元々狙う気無いしね。あんな場所。
「まあ、本気出させたいんだったらまずは僕を捕まえて見たら?」
そうやって僕はコザを挑発してみた。すると見事に引っかかってくれた。
「いいぜ、やってやろうじゃねぇか。このコザ様をなめんなよっ!」
なんか、単純すぎてわざわざ乗ってくれた感もしなくもないけど、まあどっちでもいいや。つか、捕まえるとか言いつつ、武器を手放していないって事は攻撃する気満々だね。
っと、そんな事を考えている間にコザが自分の間合いまで近づいてきていたので、慌てて開始の音頭をとった。
「じゃあ、スタート」
僕が言うが早いか振り下ろされた剣を横に躱す。すると斜めに斬り上げてきたので、逆側に横方向に移動する。追うように横のなぎ払い、難なく上に避ける。その後もコザは僕を追う様に剣を振るけど、その動きは直線的な物ばかりだった為、容易に避ける事が出来る。
でも油断はしない。その軌道が罠の可能性もある。単純な動きになれた所で複雑な動きに変える。マンガとかでよくあるパターンだし。
なので、こちらから動きを変えてみる。さっきまでは上下左右と二次元の動きで避けてきた。ではもしもここで前へ避けたら?
そう見失う。仮に追ってこれたとしても今まで通り剣で追おうとするなら体勢を崩して当たり前。まあ、結果的に前者だった訳だけれど。
「ど、どこ行きやがった」
一瞬にして僕を見失ったコザが喚き散らす。辺りを見渡すけど当然僕を見つける事は出来ない。だって今、コザの頭の後ろにいるんだもん。
酒場から笑い声が聞こえる。どうやら受けているみたいだ。
「コザ、後ろ後ろ」
そんな声が酒場から飛んできて、コザが振り返る。もちろん僕はもういない。そこで巻き起こる笑い。
そんなやり取りを数度繰り返し、コザが切れた。
「おいっ! どこにもいねぇじゃねえかっ!!」
いるよ。君の頭の後ろに。と、コザが酒場の方へ集中したのを狙って右肩を3回ほど叩く。気づいたコザが振り返った時には既に遅く、僕は移動した後。それをあと2セット繰り返し、採手の残りカウントは1となっていた。
SPDがほぼ10%、正確には9.5%減った状態。そろそろ少し冒険してみてもいい頃合いかも知れない。
ならば、少し試したいことがある。採手の効果は手で触れたときだけで、武器を持っている場合は効果を発揮しない。でも、相手の肌に直接触れる必要はなく鎧越しでも効果はあった。なら、相手の武器に触っても効果があるのか?
それを確かめる為に僕は、コザの目の前に姿を現した。現したと言っても姿を消してたわけじゃないんだけどね。
「鬼ごっこも飽きたから、次は逃げないであげる」
などと挑発してみる。いうまでもなく単純なコザさんはこの挑発にも乗ってくれた。
「ふ、ふざけんなっ。コレをくらいやがれっ」
そう言って振り下ろされた剣は僕が予想した軌道とスピードで、僕は予定通り白刃を取ることに成功した。とはいえ力の差はあるのでこのままでは文字通り押し切られてしまう。
そこで僕は一端浮遊を解き、重力と剣の振りに身を任せる。結果、僕の体はコザの太刀筋とシンクロした様に動き、その勢いのまま飛ばされる事になる。あわや壁に当たりそうになったのでその前に浮遊を発動させ、姿勢を制御するのも忘れていない。
見ると、甲の数字は0となっていた。
「てめぇ、嘘付きやがったな。どこ行きやがった!」
はい?
「この卑怯者。自分が言った事も守れねぇのかよ!」
あぁ、もしかして何をしたか気づいていない?
「僕は逃げてないよ。吹き飛ばされただけ」
なので説明してあげる事にした。
「はぁっ、何をっ、言ってっ、やがるっ!」
「だから逃げてないってば、こう剣をバシッと挟んでさ? そのまま剣が降られる勢いに身を任せてピューンとね?」
「そんなっ、事っ、出来るはずっ、ねぇっ、だろっ」
「いや、実際出来たし」
僕が説明している合間にもコザが切りつけてくるので、僕はそれを避けながら説明する。まあ、相手が聞き耳を持っていないのだがら言っても無駄なのは分かってたけどさ。
そこからはコザをおちょくりつつ、攻撃を避けたり、避けたり、躱したりして遊んでいた。けど、終わりは突如として訪れた。
「そこまでっ! この試合時間切れにより終了。ダメージ判定……共に0。ダメージイーブンにより、引き分け!」
受付のお姉さんの声がギルド内に響きわたった。酒場からわき起こる歓声。コザは剣をおろし、拳を床に叩きつけている。
そんな中、僕1人が訳が分からずただ呆然とする。
「えっ、試合? どういうこと?」
次回は賭けの結果と報酬云々の会話メインになると思われ……




